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四重興廃

しじゅうこうはい #1180

四重興廃

しじゅうこうはい

釈尊の教を爾前・迹門・本門・観心の四つに分け、前劣後勝に相対して勝興劣廃し、もって観心を最勝とする教判
この説はもと台の『法華玄義』巻二上の絶待妙を釈する文「迹の中の如き、先に方便を施すは大起ることを得ず。 今大若し起れば方便絶す。 所絶を将(もつ)て、以て妙と名くるのみ。 又迹の中の大既に起れば本地の大興ることを得ず。 今本地の教興れば迹の中の大教ち絶す。 迹の大を絶するの功は本の大に由る、迹を絶するの大を将て本の大と名く故に絶と言ふ。 又本の大若し興れば観心の妙起ることを得ず。 今観心に入りて妙寂なれば言語の道断え、本の教ち絶す。 絶は観に由る、此絶名を将て観妙と名く」に基づく。
日蓮聖人遺文では『十法界事』に「法華本門の観心之意を以て一代聖教を按ずるに菴羅果を取て掌中に捧ぐるが如し。 所以は何ん。 迹門の大教起れば爾前の大教亡じ、本門の大教起れば迹門爾前亡じ、観心の大教起れば本迹爾前共に亡ず。 此は是れ如来所説の聖教従浅至深して次第に迷を転ずる也」(定一四〇頁)とある。
ち、釈尊一代聖教中、四十余年の法華経以前の爾前経は法華経の迹門興れば、二乗作仏・十界互具が説かれるから廃され、久遠実成にて真の十界互具が顕われる本門の大教が興れば迹門は廃される。 ここで本門を文上と文底に分かち、久遠実成を明かすは法華経の文上にてこれを教相とし、文底観心の実教が興るとき、事の一念三千が説かれ、釈尊の教説は南無妙法蓮華経の七字に極まり、爾前・迹門・本門は廃される。 この興廃をもって文底観心の大教が最勝にして末法における時機相応の教法であるとする。
『立正観鈔』(日進写本)には「台の釈の意は迹の大教起れば爾前の大教亡じ、本の大教興れば迹の大教亡じ、観心の大教興れば本の大教亡すと釈するは本体の本法をば妙法不思議の一法に取り定ての上に修行を立つる之時、今像法の修行は観心の修行を詮と為るに迹を尋れば迹広し、本を尋れば本高ふして極むべからず。 故に末学に叶ひ難し。 但己心の妙法を観ぜよと云ふ釈也。 然と雖も妙法を捨てよとは釈せざる也。 若し妙法を捨てば何者を己心と為して観すべき乎。 如意宝珠を捨てて貧窮を取て宝と為すべき歟。 悲哉。 当世天台宗の学者は念仏・真言・禅宗等に同意するが故に天台の教釈を習ひ失て法華経に背き大謗法の罪を得る也」(定八四六頁)と四重興廃を評しているが、この四重興廃判が日蓮聖人の教判、もしくは日蓮宗の教義であるかは問題で、独創的教判でないのは、日本中古天台の典籍にやはり盛んにこの教判がみられるのであって、一例には鎌倉後期のものといわれる伝忠尋撰『漢光類聚』第一に四重興廃をもって煩悩即菩提の関係が解され、同じ伝忠尋撰『法華略義見聞』中巻には「四重興廃事」の項目が設けられており、体系化された教判として定着している。
ことさらに俊範の『一帖抄』(心聡筆とする説もある)にも四重興廃を釈して「法華本門尚是如来説教也。 仏果の執之有るべし。 法界観の前には自から本門は廃すべき也」と伝えていることから明白である。
なお中古天台恵心流ではさらに「止観勝法華劣」と極論するに至り、これに対して日蓮聖人は『立正観鈔』で「爰に知んぬ。 台至極の法門は法華本迹未分の処に無念の止観を立てて最極の大法とすと云へる邪義、大なる僻見也と云ふを。 (略)若此止観法華経に依らざるといはば、天台の止観教外別伝達磨の邪法に同ぜん」(定八四九頁)と破するところである。
また四重興廃の教判を日蓮宗の教義とするにも、例えば富木常忍註と伝える『観心本尊抄私見聞』(日祐作とも)には四重興廃を「以ての外の僻見なり」と評し、平賀の日伝もその著『十二因縁抄』で破しているが、しかし他方、伝日興作『五重円記』に四重興廃が用いられ、一部日興門徒がこれを採用していることなど、この点問題がある。
日蓮聖人四重興廃判があったか否かは、それが記される『十法界』『立正観鈔』の真偽問題とからんで今後の討究が俟たれる。
四重興廃判は日蓮聖人独創の教判というよりも日本中古天台教学を代表する教判思想である。
浅井要麟四重興廃について、(1)日本天台が真言密教・華厳教学の影響をうけて本迹二門に高下浅深の別をたて、本迹二教の如き観をなすに至った、(2)教相から離脱した観心の超勝を説き、これは五大安然あたりにその萌芽を発したものではないか、という特異を指摘する。
この教判の成立期については、鎌倉中期、静明あたり、以心伝心・教外別伝禅宗の影響をうけて確立したとする説がある。
《島地大等『台教学史』、硲慈弘『日本仏教の開展とその基調』、浅井要麟『日蓮聖人教学の研究』、田村芳朗『鎌倉新仏教思想の研究』、『日蓮辞典』『日興門流上代事典』『岩波仏教辞典』『国史大辞典』六巻「四重興廃」の項、小松邦彰・花野充道『日蓮団の成立と展開』(春秋社『シリーズ日蓮』三)

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