修法要具
修法要具
しゅほうようぐ
祈祷修法するに当って種々必要なものをいう。
特に「現加持」(願主を直接祈祷すること)を行うに際しての必要なものをいい、要具といっても物品ばかりを指すのではない。
古伝によれば、界縄・壇鏡・木剣、数珠・御苻・九字・呪文・薫香・華旛・呪縛筒封の法、等であるが「華旛・呪縛筒封(つつふう)じの法」は現在修法の法座に殆ど用いられていないため略する。
〔界縄〕まず修法法座を厳備するにあたり、その道場に界縄を設けて仏天来臨擁護の場所を作ることが大切で、古来「上には善神あり、諸天明神は伏兵となって下にあり」といわれ法座十方の鎮護となるのである。
界縄は注連幣(しめ)で幣束ではない。
ここで現加持用の幣束を用意することは言を侯たない。
〔壇鏡〕御宝前の祈祷本尊の前に「円い鏡」を安置するのである。
これは願主に憑く魔性の変化の様子を窺がうためで『修験故事便覧』に「妖魅はすべて鏡中の像を変ずること能わず」とあり、またその襲撃を防ぐためのものでもある。
『法華験家訓蒙』には「魑魅を防ぎ以て疾病を整ふ」とある。
〔木剣〕木剣は正中山流においては天台の加持杖、真言の金剛杵等相融して次第に剣(つる)の形をとり、身延積善坊流では「木の小枝」「桃の木の枝」「勝軍木の枝」等天台の加持杖に似た「呪い楊枝」をもって修法していたが、これも「利剣」の型となって中山・身延共にその剣身に曼荼羅を写し法華経の要句、諸天の神名等も書き入れるようになった。
相伝書には中山七本、身延八本と相承されているが、中山の伝書には七本とあるも六本のみ相承であったため、嘉永元年(一八四八)遠寿院二三世妙竜院日逞が『法華顕妙抄』(享保五年=一七二〇=遠寿院日久書写の本)を再治、書写の際「真体法剣」と名付けて補充したのが、真体木剣の初めである。
神体木剣とも後世いわれるものである。
〔数珠〕数珠は『法華験家訓蒙』に「諸度満足相成の功徳と、散心を止めんがため」とあり「金、銀、赤銅、水精等の種類あるも水精を第一とする」とあるが、木剣と合せての数珠は金属製でも水精(水晶)等の貴石製でもない。
黒檀、紫檀等の堅い木質のものが良いとされている。
『祈祷故事略旨』に「戦の砲と剣との如し」として祈祷修法において最も重要であるとしている。
修法加持に当って陰陽相撃して魔性を払い除くためで、即ち折伏の「元品の無明を切る大利剣」であり、摂受の「利生を与える大利剣」でもある。
因に「長房数珠」は現加持の「コヨリ守」に替るものとして房を長くしたもので、大正時代以降にできた。
〔御苻〕現加持にあたっては、まず御苻を与えて祈祷を受ける願主の状態、様子等を慎重に観察し、修法中に飲ます御苻、修法終って授与する御符等がある。
その作製のための水、紅、皿、筆、紙等の用意も必要である。
〔敷符〕敷紙とも言われ、その流派によっては非常に重要視し、敷紙相承を受けるための加行を特に設けている程である。
修法師も敷き、願主には勿論敷かせて邪霊の得脱を早めるためのものである。
『祈祷故事略旨』には「敵に臨み陣を布くが如し」といっている。
〔九字〕九字を切るということは邪気を払い、仏天の加護を乞うためである。
まず願主の家に行く前より「九字の払い」は始まり、その家への出入、修法の前後は勿論のこと、祈主(修法師)帰宅に到るまで必要に応じて、それぞれの九字を用いる。
『故事略旨』に「九字なるものは其祈壇に登るの始めより、攘魔の終りに至るまで進退緩急、関渉せざる所なし、尚兵家の六韜あるが如し」と。
〔咒文〕咒陀羅のことである。
修法中願主の状態により陀羅尼咒を用いることがあり、経句、肝文の間、九字と九字との間を繋ぎ、邪気の入る隙を与えず経力の強きをはかり、修法成就せしめるためのものである。
『法華験家訓蒙』に「咒に三種あり。
一には治病の咒。
二には滅罪の咒。
三には護法の咒是れなり」とある。
また『祈祷肝文鈔』には「鬼病(死霊・生霊・野狐・疫神・咒詛)は正しく誦咒を能治とす」とあって、咒陀羅は五段の邪気を払うものとされている。
〔薫香〕『祈祷故事略旨』に「薫香に三義あり。
一には法席を浄む。
二には病身の臭気を除く。
三には病者腹中の邪気を払う」とあり、攻城の水火に譬えている。
古来度し難い邪霊、狐霊、蛇霊等を追出すために用いられたもので成るべく佳香を使用すべしとある。
以上が修法要具についての略解であるが、現在行われている法楽加持のための要具には、撰経・火打石・水行桶等も含まれることになる。
図版