御苻
御苻
ごふ
本宗では飲むごふの場合は“苻”と書き、その他の場合は“符”と書き分けている。
経の要文・神呪等を書いて病者に与え服せしめるものをいう。
服す者を守護する故に護苻ともいい、また神苻・秘妙苻等ともいう。
一般に護符は、戸や柱に貼り、室内に安置し、また肌につけ、座下に敷くなど、種々の護持の仕方があるが、本宗ではこれらは札・守といい、御苻と区別している。
本来仏法の良薬は衆生の心病を治するを主とするものであるが、大慈悲抜苦のためには、身病をも救療しなくてはならない。
密部の諸経には病患救療の神呪が多いが、法華経は経王にして諸経の意を統摂するものである。
本宗の、修験を兼ねる本意もここにある。
即ち、方便をもって衆生を導き、真の道に会せしめるためのものである。
日蓮聖人においても御苻の作法があり、『伯耆公御房消息』(定一九〇九頁)には、上野時光の病気に際して、薬王品の二八文字をもって病気平癒の御苻を書いて飲ませる旨が伝えられている。
また文永八年(一二七一)には四条金吾女房日眼女に安産の御苻を授けられている(定四八四頁)。
元来、符の字は験証の意があり、漢代に竹の長さ六寸のものを二分し、わりふとして使ったことに始まる。
道家では神符を盛んに用いたようで、『抱朴子』に「鄭君の言、符は老君より出でたり、皆な天文なり。
老君能く神明に通ず、符は皆な神明の授けて人をして之を用ひしむる所なり」という。
しかし符は道家固有のものではなく、道士が符に用いる天文(天上の文字)は、多くは梵文を改変したものであり、仏教より出たものと推定される。
更に北天竺三蔵阿質達散の訳した『穢跡金剛禁百変法経』一巻には、苻に用いるべき文字と製法・功徳等が説かれており、仏家における御符の原流とも考えられる。
仏家における符とは、符印の義である。
『玄義』第一〇に『提謂経』を引いて「不死の地を得むと欲せば、まさに長生の符を佩び、不死の薬を服し、長薬の印を持つべし」と説いているが、これらの文により、道家の名をかりて妙符と名づけたものと伝えられている。
『金光明経』第三除病品に、過去世無量劫に持水・流水という二人の医師がおり、軟語をもって病者を慰喩したので、百千の衆病悉く除癒したと説かれている。
ましてや妙経を聴聞する功徳は言うに及ばず、薬王品に「是の経を聞くことを得ば、病即ち消滅す」と説かれ、更に妙文を服するに至っては、寿量品に「即便(ただち)に之を服すれば、病は尽く除(のぞこ)り愈えたり」、「即ち取りて之を服するに、毒病皆愈えたり」と説かれているごとくである。
御苻は、紅と墨にて書くが、紅をもって書くのを上とする。
また用いる水は必ず日出前に聞神の方より汲み、仏前に供えてのち、必ず心身を清浄にして書くものである。
更に苻を書く時は必ず普賢呪を誦し、書き終るまでは決して座を立ってはならない。
心身の清浄こそ肝要にして得意すべきものである。
なお本宗の護苻は、一〇〇日間の荒行成満者のみが、無漏の相伝を授けられており、他宗権門の符とはその趣を異にする。
護苻は、これを授ける者と、所授の病者が互いに一心無二にこれを信じ、認めるところに本仏の大慈悲心と感応道交し、利験速疾されるものである。
故に修法師たる者、これを軽々しく授与することがあってはならない。
本宗の護苻には種々あるが、因みにその種類を列挙する。
神符・小児夜啼止符・諸病発起御苻・乳の出る苻・産前の符・難産の符・授子苻・安産の苻・離別符・腫物の苻・虫歯の符・万病の苻・鬼病の苻・和合苻・黄疸の苻・等々がある。
これらは各々定められた巻数誦経し、修法開眼する。
詳細は無漏の口伝とされている。
《『祈祷指南書』、『修験故事便覧』、『法華験家訓蒙』》