六巻鈔
六巻鈔
ろっかんじょう
六巻、富士大石寺第二六世・第二八世(再住)である堅樹日寛(一六六五-一七二六)の主著。
正本は大石寺に所蔵され『宗全』四巻「日蓮正宗部」、『富要』第三巻「宗義部」二に収載されている。
なお日蓮正宗では六巻抄と表記しているようである。
本書は江戸時代中期に至って日興門流大石寺の教義を日寛が大成したものであり『本因妙抄』『百六箇相承』等の聖典に対する教義指南書として、日蓮正宗において最も尊重されている。
創価学会からは『六巻抄講義』が刊行され、教義の根幹として学習されている。
六巻鈔とは日寛が享保一〇年(一七二五)草稿のあった「三重秘伝抄」等を補訂して大石寺教学の体系を顕すのに、六巻の敍述をなしたところに呼称の由来がある。
「三重秘伝抄」第一は『開目抄』の「文底秘沈」の文によって権実・本迹・種脱の三重の教判が根拠づけられるとして、仏教全体の位置づけを行い、日興門流独特の事一念三千の解釈を確立しようとする。
「文底秘沈抄」第二は文底秘沈の事一念三千を具さに現したのが本門の本尊・本門の戒壇・本門の題目の三大秘法であるといい、独特の解釈を展開する。
「依義判文抄」第三は、三大秘法の文証(もんしょう)と五箇(五義のこと)の文証とを究明する。
「末法相応抄」第四は末法初心の行者は法華経全体を読誦してはならない(これを読誦謗法とよぶ)とし、また仏像の造立をしてはならず、もっぱら大曼荼羅を礼拝せよと論じる(これを造像謗法という)。
「当流行事抄」第五では末法行者は方便品・寿量品を読誦することが助行であり、正行とは「久遠元初(くおんがんじょ)の自受用身の当体、事の一念三千無作本有の南無妙法蓮華経」に「直達正観(じきたつしょうかん)する」ことであると述べ、なお方便品は寿量品の家の方便品として、寿量品は文底の家の寿量品として読誦せねばならぬと説く。
「当家三衣抄」第六では、僧侶の着用する袈裟が三衣(さんね)に由来することを尋ね、他門流が紫衣(しえ)・香衣・綾羅・錦繍の七条や九条の袈裟を着用するのは誤りであるとし、日興門流のみが薄墨の素絹を法衣とし、五条の袈裟を着用する由来を述べている。
これらは大石寺の教義であって、その理論は『本因妙抄』、『百六箇相承』以来、形成されて来た日蓮本仏論に基づく特殊な理論であり、牽強付会な論議の積重ねといわねばならぬ点が多い。
《望月歓厚『日蓮宗学説史』、執行海秀『日蓮宗教学史』、茂田井教亨「大石寺日寛の教学」『創価学会への教学的批判』、渡辺宝陽「日蓮宗各派における教学体系化の様相」『近代法華仏教の展開』》