法衣
法衣
ほうえ
本来の語義は、「如法の衣」ということで、「仏弟子として、その教理を信奉し遵守し布教する僧の服装」を意味する語である。
インドの原始教団に於ては、僧の身に着けることを許されたものは、「三衣」と呼ばれる、いわゆる「袈裟」のみであるから、法衣とは本来、袈裟のことだった訳であるが、仏教が中国にひろまり定着するようになってからは、僧の服装も次第に中国の風土に適合した様式が考案されるようになり、宮中の官服の制などをとり入れて、インド伝来の袈裟の下に着る僧服がつくられ、これも合せて法衣と呼ぶようになった。
そして、後には「袈裟」と「法衣」を分けて「けさ、ころも」と呼んだり、縹帽子・燕尾帽子・指貫袴その他の付装具まで合せて「法服(ほうぶく)」「衣帯(えたい)」(『釈氏要覧』)などとも呼んでいるが、現在の通念でいう法衣とは、中国に源をもつところの、袈裟の下に着る僧服のことである。
法衣の種類は、鈍色(どんじき)、裘代(きゆうたい)、袍裳(ほうも)をはじめ、直綴(じきとつ)、素絹(そけん)、道服(どうふく)、布教服(ふきようふく)、褊衫裙(へんざんくん)その他、多岐に亘っているが、現在、本宗で主に用いているのは、直綴、素絹、道服、布教服などである。
袍裳は、袍服、法服ともいい、袍(袷の上着)と、裳(単に裙子)に分かれた法衣で、生地は、絹地織紋模様の緞子を用いる。
襟のうしろに僧綱首(そうごうしゅ)あるいは僧綱領(そうごうりよう)、僧綱板(そうごうばん)と呼ばれる頸立(くびたて)が付けられていることから、別名を僧綱衣、または、襟立衣(えりたてごろも)ともいう。
もとは、朝廷に参内する僧に下賜した官服であったが、後に法衣として用いられるようになったもので、現在の本宗ではほとんど使用されていないが、江戸時代までは、正式の法衣の第一として用いられていたのである。
直綴は、袍裳や褊衫裙が、上衣と裙を別々に着るようになっているのに対して、この二つを直に綴りあわせてつくられた法衣で、「慈覚大師円仁(七九四-八六四)が入唐求法の途次、会昌で武宗の破仏の難に遭い、僧綱襟をはずした袍に裳を直に縫い綴って儒者の服のように仕立てたものを身に著け、非僧の姿になって脱出し、これを我国に持ち帰ったのが始まりである。」とも、「百丈懐海(唐代の禅僧で八一四年没)が考案した。」ともいわれている。
そして、平安時代には、直綴は、正式の法衣としては認められず、俗服と同じ扱いを受けていたが、鎌倉時代に至って、禅宗が盛んになるに従って、次第に法衣としての地位を確立し、禅宗のみでなく諸宗にもひろまっていった。
本宗では、直綴を正式の法衣として『法服規程』に載せており、本衣(ほんね)(あるいは、ほんごろも)と呼んでいる。
素絹は、生絹・無紋・単仕立にするのが正式であるといわれているが、後には、無紋精好(せいごう)の絹も用いるようになった。
本来、白(素)の絹でつくったものであったが、宮中より僧位を授かった僧が貴族の官服の色にならって緋・紫・赤・黒などの色素絹を用いるようになったものであるという。
なお、長素絹(ながそけん)といって裾を長く床に引いて着るもの(座曳とも)と切素絹(きりそけん)といって、裾丈を短かく切りつめたものがある。
長素絹は、ごく特殊な法要にのみ用いられ、普通、素絹といえば、切素絹のことを意味する。
なお、本宗では、短絹(たんけん)と称している。
薄墨色((ねずみ)色)には、木蘭色五条袈裟、黒色には、木蘭色、素紫、紫金、紫紋白、茶金などの五条袈裟、また、紫素絹には、緋金、緋紋白の五条袈裟を着用する例になっている。
なお、直綴・素絹などについて、緋・紫・白・縹(水色)等のものを色衣(しきえ)と称している。
道服は、素絹の袖の部分をきりつめたり、裙の襞を少なくしたりして、日常行動に便利なように改良したもので、僧侶の常服としてつくられたものである。道服の際は、袈裟は折五条である。
なお、四紐(よつひも)という法衣があるが、これは、素絹から現在のような道服が完成するまでの中間のものである。
褊衫裙(偏衫裙とも)は、三衣の下に着るものとして許されていた、助身衣の中の僧祇支(そうぎし)「左肩より右脇につけるもの」と、覆肩衣(ふくけんね)「右肩から左脇にかけるもの」を合せて襟と袖をつけてつくられたもので、垂領で、僧祇支と覆肩は背の部分は縫わないままにしてあるのは、本来の意義を伝えているのである。
また、着用するには、左袵(ひだりまえ)にする。
この褊衫に裙子(くんず)を付けて、褊衫裙という。
生地は、麻布、あるいは、木綿布である
袈裟は、同質同色の七条袈裟であり、坐具を帯用する。
如法写経会には、この衣帯を着用するのが本義である。
本宗の例としては、加賀の宝塔懺法出仕の僧が今も、この衣帯を着用している。
布教服は、道服を更に簡略して、洋服の上から着て折五条をつければいいようにつくられたものである。
《宮崎英修編著『新編日蓮宗信行要典』、井筒雅風『法衣史』、同『袈裟史』、『遺文辞典』歴史篇「法衣」の項、『日蓮辞典』『広説仏教語大辞典』『新版仏教学辞典』『岩波仏教辞典』「法衣」の項》