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回向

えこう #1183

回向

えこう

(1)梵語pariṇāmanāの訳。
廻向とも書く。 廻転趣向(回転趣向)の意。 自己が積んだ善根功徳を廻転して、ある目的達成に向けること。
目的の種類に応じて三種回向、十種回向等がある。
三種回向とは『大乗義章』九に説くところで、 一に菩提回向、自己が積んだ種々の善根功徳を廻して菩提の達成にふり向けること。 二に衆生回向、自己が積んだ善根功徳を廻して一切衆生に施すこと。 三に実際回向、自己が生涯に積んだ一切の功徳を廻して涅槃の証得に資すること。
次に十種廻向とは『華厳経疏』二六に説く。 一に自を廻して他に向い、二に少を廻して多に向い、三に自の因行を廻して他の因行に向う(以上は衆生廻向)。 四に因を廻して果に向い、五に劣を廻して勝に向い、六に比を廻して証に向う(以上は菩提廻向)。 七にを廻してに向い、八に差別の行を廻して円融の行に向う。 (以上は実際廻向)。 九に世を廻して出世に向い、十にに順ずる事行を廻して理所成の事に向う(以上は菩提・実際に通ず)をいう。 故に三種を開いて十種としたわけである。
よく知られた回向浄土門にいう往相廻向と還相廻向である。
往生論註』下によると、自分の功徳を衆生に廻施して倶に弥陀の浄土に往生することを願うのを往相廻向といい、浄土に生れてのち再びこの世に来還して衆生を教化し、浄土に往生させることを還相廻向という。 故に往相廻向は先の衆生回向に同じである。 還相廻向は浄土門独特のものである。
ただし真宗ではこの二廻向を共に弥陀如来の他力によると見るに至り、二廻向共に浄土門独得のものとなる。 現今行われる祖先の追善回向は三種回向のうち衆生回向に当ることになる。
日蓮聖人が行われた最も有名な回向は、師の道善房の死去に際して述作された『報恩抄』にて、自分が今までの生涯に積んできた一切の功徳を廻して、道善房の追善菩提に資しようとされたことである。
《『遺文辞典』教学篇「回向・廻向」の項》

(2)法式において、仏事法要を営み、その功徳を死者の霊にめぐらし、冥福を祈る際などに用いられる。
回向の趣意を表白する文を回向文(えこうもん)といい、通常、自力門の諸宗では「願以此功徳、普及於一切、我等与衆生、皆共成仏道」という『法華経』(化城喩品)の四句の偈文を、他力門の諸宗では「願以此功徳、平等施一切、同発菩提心、往生安楽国」という唐の善導の『観経玄義分』偈の最後の四句を唱える。
日蓮宗では朝夕の勤行をはじめ、種々の法要に応じて、それぞれ先師の筆に成った多くの回向文がある。 但し回向文は、時と場合によって最もふさわしいものを諷誦することが肝要で、法会の趣旨と回向文の内容に齟齬(そご)があってはならない。 先師苦心の回向文にも、代の変化でそのままでは使用できないものもあるから、然るべき改変を試みる必要のあることも起こり得る。
また回向文の諷誦にあたっては、音吐遒亮(おんとしゆうりよう)に文句分明なるべきこと、誦経の場合と異ならない。 ただ誦経とはおのずから声調を異にすると心得るべきである。
施餓鬼回向のように、長文でしかも対句を繁用した駢文(べんぶん)体のものなどは、対句をはっきり意識し、文脈をよく捉えて読まないと「弁慶がな、ぎなたを持って」式に陥り、せっかくの名文も台なしになってしまう。 自分の息の長さを計り、あらかじめ回向文に朱で句読点をうっておき、その句読点で忠実に息を切り、あるいは声を止めるようにするのも、初心者には有効な方法であり、聞く者をして回向の趣意を解させやすい。
要するに、回向文の内容と諷誦の適否とは、法要の重要な部分で、これによって導師の人格・学識等をうかがうことができる。
充洽園礼誦儀記』に「回向は啓白言上なる故に、読誦唱題よりも、敬謹を加へて、専心至念に称挙すべし。 昏昧浮虚、麁略散乱なるべからず。 大会法式のは、好音朗舌、正信敬行の者を択び、唱拳せしむべし。 尤も華言雅文の回向を用ふべし。 但し文華に過ぎたるは宜しからず。 真実の文辞を貴しとす。 唐音など甚だ不可なり。 大衆をして了了分明に、繋念加持せしむる様に、文辞言句みな念じ易からしむべし。 平日の回向は、雅文にては大衆聴者には宜しけれども、唱ふる者及び導師念力、寡薄に成り易し。 故に雅文の回向を用ふとも、重ねて別念言上すべし。 尤も俗言を用ふるが、念力凝り易し。 但いかにも至心専念、真実誠厚なるをしとするなり。 (略)或は啓自の意趣と、唱挙の言辞と相違することあり。 甚だ麁略なりと云ふべし。 又不敬の失を致す。 能く能く意を用ひて、慇懃鄭重ならしむべし」とある。
『広説仏教語大辞典』「囘向」の項、『新版仏教学辞典』「廻向」の項、『日蓮辞典』『岩波仏教辞典』「回向」の項、毘尼薩台巖『法華礼誦要文集』、北尾日大『日蓮宗法要式』、深見耀宏『昭和新編法華回向文全集』、石井日章等『宗定日蓮宗法要式』、宮崎英修『新編日蓮宗信行要典』、戸田日輝『祈祷回向文』》

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