解深密経
解深密経
げじんみっきょう
唐・玄奘訳(六四七年)五巻。
瑜伽行唯識学派・法相宗の根本経典である。
サンスクリット原典は現存しないが、サンスクリット名はSaṃdhi-nirmocana-sūtraという。
仏の深密(saṃdhi)の教えを解明した(nirmocana)経という意味であって、この深密の教えが唯識説である。
略して『深密経』という。
異訳として菩提流支訳『深密解脱経』五巻(五一四年)、部分的異訳として、求那跋陀羅訳『相続解脱地波羅蜜了義経』一巻(四三五-四三年)、同訳『相続解脱如来所作随順處了義経』一巻、真諦訳『解節経』一巻(五五八-五六九年)がある。
本経は、序品・勝義諦相品・心意識相品・一切法相品・無自性相品・分別瑜伽品・地波羅蜜多品・如来成所作事品の八品から成る。
序品には仏が十八円満の浄土たる受用土において、二一種の功徳成就の受用身を現じ、無量の声聞衆と菩薩衆が集会している光景を述べ、第二勝義諦相品には勝義諦・真如の相は、(1)名言の相を離れ、(2)有無の二相を離れ、(3)尋向の所行を超え、(4)諸法の一異相を離れ、(5)一切に遍じ一味相であると説く。
第三心意識相品には、いわゆる阿頼耶識縁起説が説かれる。
即ち阿頼耶識は阿陀那識(執持識)と称されるが、それは個体の中心主体として心身環境を維持(執持)する識という意味である。
この阿陀那識はあたかも河の流れのように、一すじのものとして不断に持続し、これに対し眼・耳・鼻・舌・身・意の六識はあたかも流れの上に生じた波のように、阿陀那識の上に生起し、それと共に働く。
第四一切法相品には遍計所執相・依他起相・円成実相の三性が説かれる。
遍計所執相とは分別によって構想されたもの、依他起相とは、他によって即ち因縁によって生起するもの、円成実相とは完全・真実なるものであって、真如をさす。
一切諸法はこの三つの性質から成るものであることが説かれる。
第五、無自性相品では三性のそれぞれの対して相無自性、生無自性、勝義無自性という三無自性を説く。
遍計所執相は相(実質)が無であるから、依他起相は自然生(単独で生起すること)が無であるから、円成実相は勝義の無であるから、それぞれ無自性である。
またこの品には、いわゆる有・空・中の三時教判を説いている。
第六分別瑜伽品では止観行を詳説して、識の所縁は唯識の所現であるとして、いわゆる影像門の唯識を説き、第七地波羅蜜多品では十地および十波羅蜜多行を説き、第八如来成所作事品では、如来法身の相および化身の働きを説いている。
本経は、序品を除き他の七品が『瑜伽論』巻七五-七八にその全文が引用されている。
本経は『瑜伽論』と共に唯識説の思想の方向を規定した重要な作品であって、無著の『摂大乗論』、護法の『成唯識論』などにも引用され、後世への影響は極めて大きい。
中国における註釈としては、円測の『解深密経疏』(一〇巻、ただし第一〇を欠く)が現存している。
なおチベット大蔵経には、本経と、本経に対する数種の註釈のチベット訳が収録されている。
《『正蔵』一六巻、『国一』経集部三、野沢静証『大乗瑜伽行の研究』、『遺文辞典』歴史篇「解深密経」の項、『大蔵経全解説大事典』「〇六七六・解深密経」の項、『大乗経典解説事典』「如来蔵・唯識部」、『仏書解説大辞典』『岩波仏教辞典』「解深密経」の項》