唯識論
唯識論
ゆいしきろん
具名は『成唯識論』、世親造頌・護法等釈、玄奘訳(六五九)一〇巻。
世親(ヴァスバンドウVasubandhu天親)の『唯識三十頌』に対し十大論師が釈を著したが、本書は護法(ダルマパーラDharmapāla=五三〇-五六一)の釈を正義と見なして、訳者玄奘が、その護法の釈文を中心にして、他の九論師の釈文をこれに合糅し、十註釈を一本化して訳出したものであると伝えられている。
しかし実際はほとんど護法の学説が述べられており、他の論師の学説が述べられるとしても、それは護法説を主に批判するために、引用される場合が大部分である。
本書は法相宗の根本典籍としてすこぶる重視され、中国・日本において盛んに講学され、とくにわが国において著された註釈書・研究書の類はおびただしい数にのぼる。
註釈書の中では玄奘の弟子、窺基(慈恩大師=六三二-六八二)が著した『成唯識論述記』を最高の指針とし、その補遺的注釈として「三箇の疏」(『枢要』・『演秘』・『了義灯』)もある
本書は一切諸法は識(心)によって表象され、識より顕れ出たものであると説く唯識思想を根本とし、その識の構造と表象された一切諸法の構造を分析して述べている。
識は眼・耳・鼻・舌・身・意・末那・阿頼耶の八識から成るが、阿頼耶識を中心にして諸識が生起し、その諸識の活動によって諸法が阿頼耶識の種子より現行し、更に現行した諸法は阿頼耶識に薫習して新たに種子を形成する。
諸法は基本的に五位百法に分類される。(倶舎宗では五位七十五法に分類したのに対して唯識説を説く法相宗は五位百法の分類をしている)
また衆生には、(1)声聞種姓、(2)独覚種姓、(3)菩薩種姓、(4)不定種姓、(5)無種姓という五姓が存在し、この五姓の差別は先天的に定まっているから、永久に成仏し得ない衆生が存在すると主張している。
《『国蔵』論部一〇巻、深浦正文『唯識学研究』下、宇井伯寿『仏教汎論』、『遺文辞典』歴史篇「唯識論」の項、『岩波仏教辞典』「成唯識論」の項、『大蔵経全解説大事典』「一五八五・成唯識論」の項、『大蔵経全解説大事典』「一五八八・唯識論」『仏書解説大辞典』「成唯識論」「唯識論」の項》