薬師経
薬師経
やくしきょう
漢訳に四種がある。
(1)『薬師瑠璃光経』一巻、宋慧簡訳。
(2)『仏説薬師如来本願経』一巻、隋達摩笈多訳。
(3)『薬師瑠璃光如来本願功徳経』一巻、唐玄奘訳。
(4)『薬師瑠璃光七仏本願功徳経』二巻、義浄訳。
このうち(1)は『大灌頂神呪経』一二巻、東晋帛戸梨密多羅訳の第一二巻『仏説灌頂抜除過罪生死得度経』の抄訳であるとも言われている。
但し偽経説あり。
(4)の上巻は薬師七仏中、前六仏に関して説かれ、下巻は(1)―(3)訳同様薬師仏についての所説である。
単に薬師経と呼ぶ場合は前三訳と(4)の下巻をいい、通常は(3)のみを指す。
日蓮聖人の用いられた訳は、(3)と思われる。
遺文中、薬師経の引用は『立正安国論』(定二一一・一四五七頁)、断簡一三七(定二五二一頁)等に散見する。
『立正安国論』の引用「若刹帝利・灌頂王等の災難起らん時、所謂人衆疾疫の難・他国侵逼の難・自界叛逆の難・星宿変怪の難・日月薄蝕の難・非時風雨の難・過時不雨の難あらん」は(3)(『正蔵』一四巻四〇七頁c)、(4)(同前四一五c-四一六頁a)に一致し、断簡一三七の「若是女人得聞世尊薬師如来名号至心受持於後不復更」は(3)(同前四〇六頁b)からの引用と考えられる。
本経は毘舎離国広厳城の楽音樹下において、文殊師利菩薩に対し説かれたものである。
その内容は、西方極楽浄土の如き東方浄瑠璃世界の教主薬師仏が、因位において発した十二の大願についてと、薬師の名号を受持し、彼の仏を供養する者の功徳についてである。
本経は天台の五時判では方等部に属する爾前経である。
即ち法華経の能開に対する所開の経として、聖人は『立正安国論』中に「三災七難」の所説を引用している。
「三災七難」とは本来、薬師仏に帰依すれば避けられるものであるが、聖人は法華経に対する信を回避の要因とされている。
本経は『正蔵』一四巻、『縮刷大蔵経』閏帙五巻、『日蔵』九巻等に収録される。
《『遺文辞典』歴史篇「薬師経」の項、『大蔵経全解説大事典』「〇四四九・仏説薬師如来本願経(達摩笈多訳)」「〇四五〇・仏説薬師瑠璃光如来本願功徳経(玄奘訳)」「〇四五一・薬師瑠璃光七仏本願功徳経(義浄訳)」の項、『大乗経典解説事典』「弥勒部」、『仏書解説大辞典』「薬師如来本願経」「薬師瑠璃光如来本願功徳経」「薬師瑠璃光七仏本願功徳経」の項、『岩波仏教辞典』「薬師経」の項》