妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

日蓮大菩薩真実伝(勝諺蔵作)

にちれんだいぼさつしんじつでん #2970

日蓮大菩薩真実伝 (勝諺蔵作)

にちれんだいぼさつしんじつでん

大阪の狂言作者・勝諺蔵(かつげんぞう)の書いた脚本。
明治一四年(一八八一)一〇月、大阪中座で三代目中村福助(のちの中村梅玉)が日蓮聖人に扮して上演、大いに好評を博した。
世上「福助の日蓮記」と称された。
配役はほかに蓮長、日朗・北浦忠吾、斉藤兼綱(二代目坂東寿三郎)、弥三郎、鏡忍房・本十郎左衛門(二代目実川延三郎)ほか。
小川泰堂著『日蓮大士真実伝』を下敷きとし一二幕物の一代記に脚色、超人非凡の日蓮聖人を描き「日蓮大菩薩」への信仰的憧憬を高唱した。
幕の「八宮鳥居先の場」は、漁師貫名治郎が安産を祈りに来て富木播磨守と対面。
「貫名治郎住の場」では妻梅菊が懐妊の奇瑞を語り、やがて男子が生れ日丸と名づけられ道法師の弟子になるとの約束が成立、幕が引かれて「是より十六ヶ年相立候狂言」の札が下ろされる。
第二清澄山虚空蔵堂の場」は白髪の老人より智慧の宝珠を授けられ血を吐く薬王麿とわが子を介抱する梅菊の姿を「清澄寺道善法師居間の場」では剃髪して蓮長と改名し修学の途につくまでを描く。
第三幕「清澄寺門前の場」「清澄寺広間の場」「清澄寺山中の場」はいずれも立教開宣の場面を示し、父母を教化する日蓮聖人の姿をうつし出している。
第四幕は「大学三郎邸前の場」「北条家大広間の場」「由井ケ浜の場」から成っている。
立正安国論』を大学三郎能本(よしもと)を通して差し出し、怒った時頼(ときより)が能本の眉間を打って見えを切る場面があり、伊豆に流罪される日蓮聖人のもとに駆けつける日朗が登場、師弟の別れを描写する。
以下、第五幕「漁師弥三郎住の場」、第六幕「小松原法難の場」、第七幕「良観律師讒訴の場」、第八幕「竜口法難の場」「行合川の場」、第九幕「本間重連館上使の場」第一〇幕「佐渡塚原三昧堂の場」と続き、法難を超人的にのりこえ、人々を改心させ弟子に情愛を注ぐ修羅場と愁嘆場が連続して描き出されてゆく。
この後、第一一幕「鵜飼勘作住家の場」(甲州石和の川辺で鵜飼勘作の幽霊を成仏させるというもの)、第一二幕「法論石の場」(甲州小室の山伏善知法印が日蓮聖人の法力で降伏するというもの)が付加されている。
なお、本作を上演したとき、大詰の身延山久遠寺本堂の場は格天井より欄間の彫物まで実景を写し、舞台一面に畳を敷き、三世中村福助が貫首となり役者一同が読経した。
本作は同一九年一〇月に東京の中村座で上演され、ここでも日蓮聖人に扮した福助は人気を集め、次いで明治二四年に同座で初演された『日出国五字旗風(ひいづるくにごじのはたかぜ)』でも彼の日蓮聖人が大評判を集め、以後、いよいよ日蓮聖人劇といえば福助といわれるほどの得意役となった。
本作は旧来の日蓮記を踏襲した外伝物である。
全般的に日蓮聖人信仰や人格は平板にしか捉えていない面もあるが、超人的な高僧の奇瑞譚の色彩が濃厚で、それ故に庶民に歓迎され信者に受け入れられた面が強く、明治前期の日蓮記の一方を代表するものということができる。
《星野梅耀『劇に現れたる日蓮上人』》

← 事典トップ