講演法華儀
講演法華儀
こうえんほっけぎ
詳しくは入真言門住如実見講演法華略儀、略して法華略儀ともいう。
二巻。
奥書に「去貞観九年六月於延暦寺講堂竟之」とあり、智証大師円珍(八一四-八九一)撰とすれば、時に五四歳、座主補任の前年の作である。
しかしこれを円珍撰とするについては賛否両論があり、三井系の学匠は大体において円珍撰とし、真偽の判定に厳格な証真も『天台真言二宗同異章』において真撰と見、最近では島地大等も『天台教学史』において直ちに真撰として論を起しているが、法曼流祖師の相実説、政春(一一五一-八〇)記の『師説集』は偽撰とする。
『仏書解説大辞典』において田島徳音も、本書の普礼の項の讃に有名な本覚讃を用いていることに注目して「智証大師滅後、三井系に属する誰人かが仮托した書であろう」とする。
しかし円珍と同時代の安然が既に『蓮華三昧経』を空海将来とし、その本覚讃を盛んに諸著作に引用するから、本覚讃の有無によって本書を偽撰とするのはおかしい。
この間にあって日蓮聖人は『註法華経』に「講演法華儀云 世二山王院ド云フ」(開二二-三ウ)といい、また遺文中全く引用がないことによれば、偽撰と考えておられたかも知れない。
述作の由来については書末に問答を設け、五ヵ条を示しているが、要するに顕教法華の三部経に密教的解釈を施し、妙法曼荼羅を建立して、密教は顕教の本源・所詮であることを両業の学生に知らせるための講演である。
論の体裁は「行者が高座に登」ったときの説法様式の一典型を示すという形式をとり、まず観想、次いで敬奉・普礼・勧請・懺悔・受戒・発願と次第して、法華三部経の講釈に入る。
三経に対して顕教釈・秘密釈の二釈を施し、大意・題目・人文分節の三段に分けて解釈する。
故に本書の題号は「真言門ニ入リ如実見(小実相)ニ住シテ法華ノ略義ヲ講演ス」と読める。
その教理的特色については島地大寺の「講演法華儀の研究」(『天台教学史』所 収)、塩田義遜の「蓮華三昧経と台密法華曼荼羅」(『法華教学史の研究』所収)等があり、『蓮華三昧経』と本書との関連性が論じられている。
『智証大師全集』にはなお、『法華曼荼羅諸品配釈』ー巻、『法華経両界和合義』一巻があり、本書と合せて円珍の法華曼荼羅研究の三部作の観を呈しているが、例えこれらが円珍の作でないとしても、『些々疑文』二巻等に明らかなように、円珍は法華法に並々ならぬ関心を寄せているところから、これらが円珍に仮托されたに違いない。
しかし三書はそれぞれ法華曼荼羅の画き方が異なり、また先行する不空の『法華観智儀軌』、『蓮華三昧経』の曼荼羅図様とも相違し、法華法には一定の図様がないといわねばならぬ。
《浅井円道『上古日本天台本門思想史』》