元亨釈書
元亨釈書
げんこうしゃくしょ
鎌倉時代末期に編集された日本最初の編年的高僧伝・仏教史書。
全三十巻。
東福寺海蔵院の虎関師錬(一二七八-一三四六)の著。
本書は『高僧伝』、『続高僧伝』、『宋高僧伝』など中国の高僧伝を参考にし、その欠点を補って編集されている。
章節の区分は、伝・賛・論・表・志の五格分類にならったが、賛と論は「伝」の中に含まれ適宜に僧伝に追加されているので、結局は伝・表・志の三章に区分されている。
序章に「元亨釈書目録」、「元亨釈書上表」があり、末尾に「智通論」が付けられている。
巻一-一九は「伝」で僧伝部に当る。
この部は更に伝智・慧解・浄禅・感進・忍行・明戒・檀興・方応・力遊・願雑の一〇科に分かれ、願雑は古徳・王臣・士庶・尼女・神仙・霊恠の六に細分されている。
この僧伝部では菩堤達磨・慧灌から始まり安珍、無空、講仙に至る四〇〇余人の僧伝を記す。
巻二〇-六は「表」で、欽明天皇元年(五三八)から仲恭天皇承久三年(一二二一)に及ぶ六八三年間に生起した国事と関係のある仏教の史事を収録した「資治表」である。
巻二七-三〇は「志」で、諸宗・会議・封職・寺像・音芸・拾異・黜争・序説に分類して簡単に説明する。
例えば「諸宗志」では三論・唯識・律・華厳・天台・密・禅・浄土・成実・倶舎等十宗の教義、「寺像志」では向原寺・四天王寺・元興寺・大安寺等三〇寺院に関する縁起、「音芸志」では経師・声明・唱導・念仏が述べられる。
本書の編著者である虎関は臨済宗建長寺の一山一寧(正安元年=一二九九=来朝・宋の禅僧)に師事した。
『海蔵和尚記年録』によると、一山和尚から日本の高僧のことについて質問されたとき「公の博弁異域の事に渉りては章に悦ぶべし。
而も本邦の事に至りて頗る応答に渋るは何ぞや」と指摘され、虎関はこれを恥じて発憤し本朝の高僧伝の著作を志し、十数年を費やして完成した。
しかし僧伝に当る部分の原作者に関しては従来より異論があり、『碧山日録』によると疑然がこの部分を和文で書き、固山が漢文に訳して虎関に提供した。
虎関がこれに「表」と「志」を加えて『元亨釈書』としたという。
この原作者の問題は全面的に否定できない点もあるが、しかし、作者の問題で本書の価値が左右されることはない。
本書以前にも『往生伝』、『明匠略伝』(三巻、承澄著)、『日本高僧伝要文抄』(三巻、宗性著)があるが本書には及ばない。
また本書は凝然の『八宗綱要』、『三国仏法伝通縁起』と共に比較的に客観的立場から取上げている点で普遍性をもっている。
本書は日本宗教史の研究上における貴重な資料である。
延文一五年(一三六〇)に大蔵経の中に加えられた。
《『新訂増補国史大系』三一巻、『仏全』一〇一巻、『国一』和漢撰述部「史伝部」、『岩波仏教辞典』『国史大辞典』五巻「元亨釈書」の項》