妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

日蓮(川口松太郎作)

にちれん #3031

日蓮(川口松太郎作)

にちれん

川口松太郎(一八九九-一九八五)の書いた小説
昭和四二年(一九六七)に『週刊サンケイ』に連載。
同四五年三月に講談社(ロマンブックス)より刊行。
二葉よりし・鎌倉失望・叡山狸・立宗宣言・辻説法・立正安国論・法難・続法難・龍の口前後・佐渡身延入山の一一章からなる。
少年代から死にいたるまでを綴り、人間味あふれる多情多感な日蓮聖人の姿を描写した作品。
庶民のために仏道があると思い、庶民に正法を弘めた記録をとどめ、富める者だけでなく貧しき者も一様に救済しようとした生き方をとらえた。
作者は日蓮聖人の生活と布教態度と民衆教化を「理想的」と感じ「一言も無駄をいわぬ男、あの力は何処から湧いて来るのか」と賛嘆しつつ日蓮聖人と共にいると「人が磨かれて進歩したような心地がし始める」と述べ「ほんとうの偉い人」と語っている。
特に予言者でも占術者でもなく、命をかけて法華経の弘通に突き進んだ一生を「日蓮の生涯は闘いの記録です。法華経布教は闘いあるのみにて、真実の仏道を世に弘めるのが私の運命です」と作中で示し「権力と闘って法華経拡大へ闘争の歴史」を切り拓いた姿を記している。
また、一切の不条と闘った意志と釈尊への熱烈な信仰に基づき、正しく働けば安心して世に生きられる正法の世界をうち立て国難を救おうとした庶民仏教の担い手としての日蓮聖人の動きを記し、救救民を説き法華経の法灯を輝やかしていく生き方を描き出している。
さらに日蓮聖人の気魄と共に雄大で爽やかな美声をいたる所で書いているのも特色で「仏道のお話は判らぬが、感じたのは見な弁舌だ。爽やかというべきか、朗朗というべきか、お声を聞いているだけでも法華経を信じたい心になる」と作中人物に語らせている。
もう一つの特色は、幼少代から続く日蓮聖人と浜夕なる女との淡くほのかな恋を脚色している点で「日蓮の心にやどる生涯に只一人の女人」への思いに葛藤しながら友情につながる人の恩愛を凝視する多情多感な心をも写実している。
「人の情の弱さと仏道の厳しさとを同時に感じ、苦しみ、闘って磨かれ」た日蓮聖人に作者は人の美というべきものを探り出している。
同五四年「日蓮」のタイトルで映画化された。

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