日蓮(山岡荘八作)
日蓮(山岡荘八作)
にちれん
山岡荘八の書いた小説。
昭和二七年(一九五二)に発表。同四五年に講談社より刊行。
第一部から第六部に分かれ、無明、発心、修行、立宗、獅子、受難の各篇からなっている。
日蓮聖人の少年時代より松葉谷焼打事件にあうまでの前半生を題材とし、地上楽土をつくる革命者としての特性を提示した伝記小説。
仏教の聖者をめざす日蓮聖人と無法の権力者東条景信とを対比させ、光はいずこと、真実を求めて発心修行を重ね「世の中の人がなぜ不仕合せになってゆくのか、どうすれば仕合せになるのか」と問い、我人ともに救われる道を歩む仏教改革者の悲願を強調している。
更に「日蓮の革命思想による平和の悲願の実現」についてふれ、「宇宙の本質に即した人間生活のあり方」と「この世を闘争のない極楽浄土に作り変えること」を語っている。
また生きものは宇宙の生命体の一部であるという見方から「所有」の欲念を争いの原因とし、その欲から解放されるよう釈尊の浄土をはっきり見せ国民の眼をそれに向けさせることが「日蓮の革命遂行の構想」である、という特異な内容を打ち出した。
ここでは「日蓮の平和」とは秩序整然たる地上楽土とみなされ、法華経も宇宙の本質という抽象化に集約され、革命の内容も人間革命、政治革命と表現されており、権力の秩序を超えた日蓮聖人における『立正安国』の願業よりも、作者独自の平和悲願と宗教観に比重がおかれ、日蓮聖人をあくまで素材として小説化する姿勢に貫かれている。
《上田本昌「文学に現れた日蓮聖人」(望月歓厚編『近代日本の法華仏教』)》