人間日蓮(大野兤著)
人間日蓮(大野兤著)
にんげんにちれん
沙羅双樹(本名・大野兤)の書いた伝記小説。
昭和二八年(一九五三)九月に第一部を、同年一二月に第二部を発表した。
死を堵して強く正しく生きる日蓮聖人の人間的姿を描いたもの。
第一部は、さざれ波の巻、棄恩入無為の巻、千山万嶽の巻、一所不住の巻、立宗開宣の巻の五篇からなっている。
幼少期より法華経を開教するまでの青春の生きざまを、故郷の人々や父母・師匠等との人間模様をおりまぜながら描写した。
心が優しくて広い幼少期における純粋無垢な日蓮聖人が、邪悪な大人の世界に不信感を持ち、離散や死苦がうずまいていることを恐れ「人々の悩み、不安を救うものは仏だ。
仏に仕える僧だ」と肝に銘じて仏道に励み、苦悶のはてに「正しきを踏み、強く生きる」決意に達していく道すじを小説化している。
「蓮長は安房の海人の子―同じ身分の人々こそ救わねばならない大衆てある」「法華経のために柱となるものは自分より他にない。
法華経弘通の大使命は自分一生の悲願だ」と誓い、法華経によって「大孝」を果し救国救世の大悲願に生きようとする人間形成のありようを浮き彫りにしている。
第二部は、立宗開宣の巻、(後半)、逆化折伏の巻、立正安国の巻、生々流転の巻そして結びに分けられている。
法華経に生きる「確信の人」となった日蓮聖人が、幕府や諸宗を批判し正法を弘めるために法戦を貫いていく生き方を書いている。
仏法の真理を究め、報恩を旨としながら国家を諫暁する決心を抱き法難を「にこりとして屈託のない力強い顔」で覚悟し悩める人を救おうとし、信仰と人生をよみがえらせた不死鳥の信を明らかにした点に特色がみられる。
また母を「心の柱」としながら恩ある人に恩を返し「日本国の柱」となった強く深い人間性を見出す観点も小説の中に流れている。
昭和二○年代に書かれた日蓮聖人に関する伝記小説として希少価値を持っている。