日月星享和政談
日月星享和政談
じつげつせいきょうわせいだん
歌舞伎。
別名題「享和政談延命袋」「享和文談延命院」、通称「延命院」。
河竹黙阿弥作、七幕二〇場。
江戸日暮里の日蓮宗延命院の住持日当が女犯の罪で処刑された事件を歌舞伎に脚色した最初の作品で、久保田彦作が『仮名読新聞』に連載した『菊種(きくのたね)延命袋』をもとにして、講談や記録などを取入れて脚色したもの。
明治一一年(一八七八)一〇月、東京の新富座初演。
配役は、暁星右衛門(九代目市川団十郎)、宮川牛之助(のちの日当)、小栗の馬吉(五代目尾上菊五郎)、月見の文次(初代市川左団次)、おころ(八代目岩井半四郎)、柳全(三代目中村仲蔵)、脇坂侯・柳屋治右衛門(中村宗十郎)ほか名題に日月星とうたったのは、日当・月見の文次・暁星右衛門から一字ずつ取り、それを当時の三大名優団・菊・左を日月星に見立てたもの。
内容は、前半は日当、後半は馬吉を主とした筋立てになってはいるものの、両者が平行して進んでいく。
旅役者の宮川牛之助は、大阪梅田の小橋で火打石売り六兵衛の身投げを救い、それが縁で娘おころと恋仲になる。
二人は駈落ちして渡し船に乗りこむが、折から盗賊の暁星右衛門の捕物騒ぎに巻きこまれ、二人は川に落ちこむ。
星右衛門は捕手を逃れて非人小屋に逃げこみ、非人頭の馬吉に助けられる。
一方、命をとりとめた牛之助はおころが水死したと思い発心して頭をまるめて僧となり、日当と名のる。
そして出世して谷中の延命院の住職となる。
美貌の日当は江戸中に知られ女人の参詣がたえず、誘惑も多いが心を動かさない。
ところがある日、水死したはずのおころが参詣し、彼女と再会したことから急に道心がくずれ、同寺の役僧柳全のそそのかしにのって女犯の罪を重ねるようになる。
折から六兵衛が同寺を訪ねたことから、日当はおころと腹違いの兄妹であることを知るが、そのときすでに寺社奉行脇坂侯の手がまわって悪事が露見し、日当や柳全は捕われる。
一方、星右衛門は強盗の末、揚屋町の女郎屋大阪屋の亭主になりすましているが、それを知った馬吉がゆすりに行く。
星右衛門は過去の悪事を悔いて自首し、馬吉も千住で捕手にかこまれて腹を切る。
初演のときは新富座の全盛時代で、本作の評判は高く、とくに五代目菊五郎の日当と三代目仲蔵の柳全は好評を博した。
本作は僧侶の堕落と奥女中の退廃とが主題となっているが、日当の女犯など色模様の場面は露骨に舞台でみせたりしないように仕組まれている。
しかし、大正の中頃に六代目菊五郎が市村座で演じたときなどは、宗教団体からの干渉で骨抜き同様に改作されたということもある。
また、延命院の捕物の場面の仏壇や床の間や長持などの間を抜けつくぐりつの立ち回りが、当時としては目新しくうつり、喝采を博した。
その後、六代目菊五郎、一五代目市村羽左衛門などにより何度も上演されてきた。