村上浪六
村上浪六
むらかみなみろく
(一八六五-一九四四)小説家。
大衆小説の草分け。
大阪府堺生れ。
三歳で父を失い母の手で養育された。
警察御用掛や農商務省入りし、大阪の寺院の墓守の住んだ茅屋で友人と共同生活したり各地を放浪するなど遍歴を繰返した。
この間に、横井也有の『鶉羽』を読んで感動し、また親への孝養について語る日蓮聖人の遺文の一節にふれて今なお母を喜ばせることのできない自己を厳しく責めた。
この後四度目の上京を果し『報知新聞』の校正係となり、明治二四年(一八九一)四-六月『報知叢話』に小説『三日月』を連載した。
やがて退社し母を喜ばせるため『奴の小万』を書き、翌年『朝日新聞』に入社し母を迎え入れた。
更に『当世五人男』『八軒長屋』など現代物の小説を書いた。
その作風は、勧善懲悪と伝奇性に富み、性格描写は浅いが豪放磊落な人物を描くことを主眼とする仁侠の精神の強調にあった。
ここから撥鬢(ばちびん)小説と呼ばれ、近代的写実小説に飽き、江戸時代以来の戯作を好む国民の性情に適応したために大いに愛読された。
彼は法華経の題目を唱え日蓮聖人に対する関心を終生失わなかったといわれている。
日蓮聖人に関する作品には『日蓮』(明治四一年)、『日蓮と豊太閣』(「日蓮」を合本したもの。大正三年=一九一四)、『辻説法の日蓮と配所の日蓮』(大正一五年)などの評伝がある。
《『国史大辞典』一三巻「村上浪六」の項》