新著聞集
新著聞集
しんちょもんしゅう
神谷養勇軒(一七二三-一八〇二)の編著による説話集。
寛延二年(一七四九)刊、全一八篇、八冊。
本書は著者が勤仕した紀州藩侯(第七代)徳川宗将(むねのぶ)の命により成ったもので、内容は古来の珍談奇説、旧事遺聞を蒐集し、忠孝・慈愛・酬恩・報仇・崇行・勝蹟・勇烈・佞奸・崇厲・奇怪・執心・寃魂・往生・殃禍・才智・清直・俗談・雑事の一八項に分類している。
書名が示すように『古今著聞集』に倣った企画であり、その記述は誇張が少なく、作意を加えない説話として一般にかなり広く読まれ、就中、第十奇怪篇の「茶店の水碗に若年の面を現ず」という一話は、小泉八雲の「茶碗の中」の原話ともいわれる。
このような一般的評価とは別に、本書のもつ次の一面も看過することはできない。
著者の神谷養勇軒について、森銑三の考証に従えば、本姓は小池氏、故あって神谷を姓とし、名を朝英、通称善右衛門といい、養勇軒はその号である。
同じ著者に寛延四年(一七五一)刊の『挫日蓮』があり、これは日蓮宗に対する論難の書であるが、その本文に「古より日徒の悪心邪欲、謀計非道数百度に満てり。
寛延二年巳の三月、余が出版せる新著聞集に粗記しをけり。
熟覧あって蓮党の不仁悪心をさとるべし」と記しているように、著者は先行する新著聞集において既に、その露骨な法華嫌いを表明しているのである。
その言のとおり、本書においては、第八佞奸篇の「佐渡海中題目妄説」、第一四殃禍篇の「日蓮学僧活ながら天狗となる」、第一八雑事篇の「安土問答」、その他の散見する日蓮宗に関した記述に、随所で著者の感情的な中傷の意見を読みとることができる。
また、本書ならびに『挫日蓮』の編述はともに、徳川宗将の旨に出るものであり、出版も紀州家蔵版であった点を思えば、一帯に熱心な法華信仰者の多かった紀州家にあって、宗将の周辺のみは特異な存在であったといわねばならない。
《『日本随筆大成』二五、森銑三「新著聞集とその著者」(『森銑三著作集』第一一巻)》