妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

日蓮上人(幸田露伴作)

にちれんしょうにん #2959

日蓮上人(幸田露伴作)

にちれんしょうにん

幸田露伴の書いた評伝。
『少年文学』の第二五編として執筆され、明治二七年(一八九四)二月に博文館から発行された。
誕生より涅槃に至るまでを二〇章に分けて綴った日蓮聖人一代記としてまとめられている。
これは、日蓮聖人を誹謗する『大聖日蓮深密伝』にみられる「軽躁の浅薄なる思考」と「古人を妄評するの愚」をただし、古人の面貌を影写することを目的に記述された。
本書の特色は、想を求めつづける信念の人として日蓮聖人をとらえ、「法華の宗祖日蓮が一代」の蹟の大略を少年向けに明らかにした点にある。
「我が身を捨てても妙法蓮華経を弘めて如来の真意を世に諭(さと)し、方便小乗の諸経を執する盲師の所説を論じ破り、末法五濁の暗夜をば照らさんとする大願を立て、既に決定なし果てたり」(立宗)。
下の諸宗を打ち破り法華の大旗を押立てる大勇猛心(立宗)挫折に会うごとに勇気倍する「強盛の日蓮」(立正安国論)、正法のため辛苦を受けるのは歎くべきにあらずとするも師弟の情とて悲嘆の涙の雨に袂をぬらしつつ不幸薄命の最中に不屈に自己の事業を勤める「堅忍不抜の気性の日蓮」(佐渡)等を指摘する。
これらの勇気ある蹟を「末世の亀鑑」と評し、一漁夫の子と生れ出でて天下の反抗をものともせず、堅く自己の所信を貫いて世には従わずに世を従えた「大才大器」こそ日蓮聖人の真骨頂であると示している。
日蓮聖人の教えや心の内実には深く言及するところはないが、その一代の蹟を鋭い洞察力で簡潔に解明した評伝として重視されるべき著作である。

← 事典トップ