日蓮(三上於菟吉作)
日蓮(三上於菟吉作)
にちれん
三上於菟吉(おときち)が『読売新聞』に連載した伝記小説。
昭和一六年(一九四一)一〇月に黎明社より刊行。
天下無縁の人々をいく分でも、この大高僧の存在に引寄せることを念じてまとめた日蓮聖人の行状記。
「聖人の時代救済者といふ方面から一個の「人」として伝へる」ことをモチーフとしており、現代日本の革新を考えつつ書き続け、時代や民衆の苦しみをうけとめて力強く立上り、法華経を実践していく日蓮聖人の生き方を刻みこんだ。
内容としては、辻説法と松葉谷の庵室を中心に、災害に苦しむ民衆を見つめ、邪信の者たちのあざけりやののしりのただ中にあって信者に法華経信仰を教え導き、迫りくる国難に当って『立正安国論』を書き諫言を行う姿を描いている。
「時代救済者」と同時に「やさしく、たくましい傑僧」として日蓮聖人をうつし出し、「魂の救い主」である点を明らかにしてもいる。
迫害を受けつつ庶民のために法華経を説く日蓮聖人のうちに、森厳な信に生きる充実した精神があり、最も深く悲しみ、最も強く愛する高い境地が存在していたと指摘する。
精神的なものによって一切の物質的なものを超える自信と艱難を歩むことによって喜びをえる道をさし示し、「力とは忍ぶことだ、忍ぶこととは行くことだ、行くこととは生きることだ」といい、信によって望みを持ち救国のために信念を貫いた救済者として日蓮聖人を描写した。