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上野殿母尼御前御書

全集 第7巻 2段 定本: #74(定本の該当ページへ)

書下し

上野殿母尼御前御書うえのどのははあまごぜんごしよ


[1]母尼ごぜんにはことに法華経の御信心のふかくましまし候ふなる事、悦び候ふと申させ給ひ候へ。
[2]観第五の事。正月一日辰の時これをよみはじめ候ふ。明年は世間忽々そうそうなるべきよし皆人申すあひだ、一向後生のために十五日まで止観を談ぜんとし候ふが、ふみあまた候はず候ふ。御計らひ候ふべきか。
[3]白米一斗御志申しつくしがたう候ふ。鎌倉は世間かつ(渇)して候ふ。僧はあまたをはします。過去の鬼道の苦をばつくのわせ候ひぬるか。
[4]法門の事。日本国に人ごとに信ぜさせんと願して候ひしが、願や成就せんとし候ふらん、当時は蒙古の勘文によりて世間やわらぎて候ふなり。子細ありぬと見へ候ふ。もとより信じたる人々はことに悦ぶげに候ふか。恐恐謹言。
[5]<日>十二月二十二日
[6]<人>日 蓮<花押>花押
現代語訳

上野殿母尼御前御書


文永七年(一二七〇)一二月二二日、四九歳、於鎌倉、和文、定四五九—四六〇頁。

[1]母尼御前におかれては、ことに法華経のご信心が深くいらっしゃることを、日蓮がとても喜んでいるとお伝えください。
[2]摩訶止観第五の談義の件についてご連絡します。明くる正月一日の午前八時から読みはじめます。来年は、国内の騒乱やら蒙古の侵寇やらで世の中が混乱しそうだというもっぱらのうわさなので、後生安楽のために、十五日まで摩訶止観を談義しようと思うのですが、本が多く準備できないでいるのです。支障のないようにお計らい願いたいと思います。
[3]白米を一斗お届けいただいたお志、御礼の申し上げようもありません。鎌倉は食料が不足しています。一方、私のところにはたくさんの僧がやってきて行学に励んでいらっしゃる。そのような状況のところへ米を布施してくださったのですから、前世で受けた餓鬼道の苦しみをお償いになっているということでしょうか。
[4]法門の件について申し上げます。私は、日本国中のすべての人に信仰させようと発願ほつがんして努力してきましたが、その願が成就しようとしているのでありましょう、近ごろは蒙古の国書が到来したことによって、私に対する世間の風当たりがやわらかくなりました。これは、「外国からの侵寇がありそうだ」という予言の的中に驚いて私を見直しだしたからでしょう。もとから信じている人々は、このことをとくに喜んでいる様子がうかがえます。恐々謹言。
[5]<日>十二月二十二日
[6]<人>日 蓮 <花押>花押