妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

上野殿御返事

全集 第7巻 2段 定本: #20338(定本の該当ページへ)

書下し

上野殿御返事うえのどのごへんじ


[1]鵞目*がもく一貫・しほ(塩)ひとたわら・蹲鴟いもかしら一俵・はじかみ少々、使者つかいをもて送り給ひ了んぬ。
[2]あつきには水をたからとす。さむきには火を財とす。けかちには米を財とす。いくさには兵杖を財とす。海には船を財とす。山には馬をたからとす。武蔵むさし下総しもふさには石を財とす。この山中にはいえのいも・海のしほ(塩)を財とし候ふぞ。竹の子・木の子等候へども、しほなければそのあぢわひ(味)つち(土)のごとし。また金と申すもの国王も財とし、民も財とす。たとへば米のごとし、一切衆生のいのちなり。ぜに(銭)またかくのごとし。漢土もろこしに銅山と申す山あり。かの山よりいでて候ふぜにになれば、一文もみな三千里の海をわたりて来るものなり。万人皆たま(玉)とおもへり。これを法華経にまいらせさせ給ふ。
[3]*しやくまなん(摩男)と申せし人のたな心には石変じて珠となる。*こんぞく(粟)王はいさごを金となせり。法華経は草木を仏となし給ふ。いわうや心あらん人をや。法華経は焼種*しようしゆの二乗を仏となし給ふ。いわうや生種*しようしゆの人をや。法華経は一閻提*いちえんだいを仏となし給ふ。いわうや信ずるものをや。事々つくしがたく候ふ。またまた申すべし。恐恐謹言。
[4]<日>八月八日
[5]<人>日 蓮<花押>花押
[6]<先>上野殿御返事
現代語訳

上野殿御返事


弘安二年(一二七九)八月八日、五八歳、於身延、和文、定一六五三—一六五四頁。

[1]銭一貫、塩一俵、里芋の頭一俵、生薑しようが少々、使者によってお届けいただきました。ありがとうございます。
[2]暑い時には水が貴重です。寒い時には火が貴重です。飢えた時には米が貴重です。戦闘には武器が貴重です。海路には船が貴重です。山路には馬が貴重です。武蔵や下の国では石が貴重です。そのように、この身延山中では、里芋や塩がとても貴重なのです。たけのこきのこはありますが、塩がないと土をかむようで味がありません。また黄金というものは、国王も財宝として尊びますし、人民も宝物としてあがめます。たとえば米のようなものです。また銭も同様に貴重です。中国に銅山という山があります。その山で採鉱した銅で作った銭ですから、一文といえどもみな三千里の海を渡ってくるものです。だから人々はみんな宝石のように貴重に思っているのです。そういう貴い銭を法華経のためにご寄進なさいました。ありがたいことです。
[3]釈摩男しやくまなんという人のたなごころの上では、石が宝珠に変わりました。金粟こんぞく王はすなを黄金に変えました。法華経は、心のない草や木までも仏となさいます。まして心のある人間を成仏させることは疑いありません。また法華経は、成仏の種を焼いてしまった声聞乗や縁覚乗のものまでも仏となさいます。まして生きた仏の種を宿している人を成仏させないことはありません。それからまた法華経は、信仰心のない一闡提までも仏となさいます。まして信仰心のある者を成仏させるのは当然です。まだまだ申し上げたいことはたくさんありますが、使者が帰りを急いでいるのでとりあえず筆をきます。またお便りしましょう。恐恐謹言。
[4]<日>八月八日
[5]<人>日 蓮 <花押>花押
[6]<先>上野殿御返事