妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

上野殿御返事

全集 第7巻 2段 定本: #20252(定本の該当ページへ)

書下し

上野殿御返事うえのどのごへんじ


[1]むぎひとひつ(一櫃)、かわのり五条、はじかみ六十び了んぬ。
[2]いつもの御事に候へばをどろかれず、めづらしからぬやうにうちをぼへて候ふは、ぼむぶの心なり。
[3]せけんそうそうなる上、ををみや(大宮)のつくられさせ給へば、百姓と申し、我が内の者と申し、けかちと申し、ものつくりと申し、いくそばくこそいとまなく御わたりにて候ふらむに、山のなかのすまいさこそとをもひやらせ給ひて、とりのかいこ(雛)をやしなうがごとく、ともしびにあぶらをそうるがごとく、かれたるくさにあめのふるがごとく、うへたる子にち(乳)をあたうるがごとく、法華経の御いのちをつがせ給ふ事、三世さんぜの諸仏を供養し給へるにてあるなり。十方の衆生のまなこを開く功徳にて候ふべし。尊しとも申すばかりなし。あなかしこあなかしこ。恐恐謹言。
[4]<日>七月十六日
[5]<人>日 蓮<花押>花押
[6]進上 <先>上野殿御返事
現代語訳

上野殿御返事


建治三年(一二七七)あるいは建治元年(一二七五)七月一六日、五六歳あるいは五四歳、於身延、和文、定一三六五—一三六六頁。

[1]麦一櫃、河のり五帖、生薑しようが六十を頂載しました。
[2]いつも頂いてばかりいるので、れてしまって、とくに感動もせず、珍しくもないように思ってしまいますのは凡夫ぼんぶの浅はかな心のせいなのでしょう。まことに申しわけないことと反省しています。
[3]蒙古襲来のことなどで世間が落ちつかない上、浅間神社の大宮造営のお仕事を手がけていらっしゃるので、貴殿の領内の農民といい、また一家内の使用人といい、食料不足の対策や農耕の進め方などについて、どれほど繁忙の日々を送っていらっしゃるか計り知れないような情況であると思いますが、私の山中での生活が大変であろうと思いやりくださって、あたかも、鳥が卵をあたためるように、灯火に油を補うように、枯れかけた草に雨が降りそそぐように、飢えた子に乳を与えるように、私の法華経に捧げた命を長らえさせてくださることは、とりもなおさず三世の諸仏をご供養なさることになるのです。そしてそれは翻って、十方の衆生の煩悩に曇った眼を開く功徳を積むことになるわけです。貴殿のお志は言葉では現わしきれないほど尊いものです。ああ感謝に堪えません。恐恐謹言。
[4]<日>七月十六日
[5]<人>日 蓮 <花押>花押
[6]進上 <先>上野殿御返事