富木殿御書
書下し
富木殿御書
[1]十二日さかわ(酒輪)、十三日たけのした(竹ノ下)、十四日くるまがへし(車返)、十五日ををみや(大宮)、十六日なんぶ(南部)、十七日このところ。いまださだまらずといえども、たいし(大旨)はこの山中心中に叶て候へば、しばらくは候はんずらむ。結句は一人になて日本国に流浪すべきみ(身)にて候。又たちとどまるみ(身)ならば、けさん(見参)に入候べし。恐々謹言。
[2]<日>十七日日>
[3]<先>ときどの先>
[4]<人>日 蓮<花押>花押花押>人>
[5]けかち(飢渇)申すばかりなし。米一合もうらず。がし(餓死)しぬべし。此御房たちもみなかへして、但一人候べし。このよしを御房たちにもかたらせ給へ。
現代語訳
富木殿御書
文永一一年(一二七四)五月一七日、五三歳、於身延、富木常忍宛、和文、定八〇九頁。
[1]五月十二日に鎌倉を発ち、その日は酒輪、そして十三日は竹の下、十四日は車返し、十五日は大宮、十六日は南部と泊まりを重ね、今日十七日に身延に着きました。この身延に住むかどうかはきめておりませんが、おおむねこの身延の山中の様子が自分の心情によく合いますので、しばらくはここに滞在しようと思っています。しかし、結局は一人になって日本国を流浪する身です。またどこかに止住することになりましたら、お目にかかりたいと思います。恐々謹言。
[2]<日>十七日日>
[3]<先>富木殿先>
[4]<人>日 蓮 <花押>花押花押>人>
[5]食糧の欠乏は言葉ではいえないほどです。ここでは、米一合さえ売ってくれる人もいません。これではみな餓死してしまうでしょう。食糧がありませんので、貴殿がつけてくれたこの御房たちをみな帰して一人になりたいと思います。その旨を貴殿から御房たちに説明してあげて下さい。