妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

上野殿御返事

第二巻 定本番号 20372 弘安3(1280) 分類: 真蹟断片現存

祖寿: 59 著作地: 身延 真蹟: 富士大石寺断片 

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    372   上野殿御返事
去六月十五日のけさん悦入て候。さては、かうぬし(神主)等が事、いまゝでかゝへをかせ給て候事ありがたくをぼへ候。たゞし、ないないは法華経をあだませ給にては候へども、うへにはたの事によせて事かづけ、にくまるゝかのゆへに、あつわら(熱原)のものに事よせて、かしここゝをもせかれ候こそ候めれ。さればとて上に事をよせてせかれ候はんに、御もちゐ候はずは、物をぼへぬ人にならせ給べし。をかせ給てあしかりぬべきやうにて候わば、しばらくかうぬし等をばこれへとをほせ候べし。めこ(妻子)なんどはそれに候とも、よも御たづねは候はじ。事のしづまるまで、それにをかせ給て候わば、よろしく候なんとをぼへ候。
よのなか上につけ下によせてなげきこそをゝく候へ。よにある人々をばよになき人々は、きじ(雉)のたか(鷹)をみ、がき(餓鬼)の毘沙門をたのむがごとく候へども、たかはわしにつかまれ、びしやもんはすら(修羅)にせめらる。そのやうに当時日本国のたのしき人々は、蒙古国の事をきゝてはひつじの虎の声を聞がごとし。また筑紫へおもむきていとをしきめ(妻)をはなれ、子をみぬは、皮をはぎ、肉をやぶるがごとくにこそ候らめ。いわうやかの国よりおしよせなば、蛇の口のかえる、はうちやうし(庖丁師)がまないた(爼)にをけるこゐふなのごとくこそおもはれ候らめ。今生はさてをきぬ。命きえなば一百三十六の地獄に堕て無量劫ふ(経)べし。我等は法華経をたのみまいらせて候へば、あさきふちに魚のすむが、天くもりて雨のふらんとするを、魚のよろこぶがごとし。しばらくの苦こそ候とも、ついにはたのしかるべし。国王一人の太子のごとし、いかでか位につかざらんとおぼしめし候へ。恐々謹言。   弘安三年七月二日   日蓮 [花押]  上野殿 [御返事]  人にしらせずして、ひそかにをほせ候べし。