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四條金吾殿御返事怨敵大陣既破事

第二巻 定本番号 20340 弘安2(1279) 分類: 真蹟曽存

祖寿: 58 著作地: 身延 真蹟: 身延山(曽) 

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    340   四條金吾殿御返事
銭一貫文給て、頼基がまいらせ候とて、法華経の御宝前に申上て候。定て遠は教主釈尊並に多宝十方の諸仏、近は日月の宮殿にわたらせ給も、御照覧候ぬらん。さては、人のよにすぐれんとするをば、賢人聖人とをぼしき人々も皆そねみねたむ事に候。いわうや常の人をや。漢皇の王昭君をば三千のきさき是をそねみ、帝釈の九十九億那由他のきさきは尸迦をねたむ。前中書王をばをの(小野)の宮の大臣是をねたむ。北野の天神をば時平のをとど是をざんそうして流し奉る。此等をもてをぼしめせ。入道殿の御内は広かりし内なれどもせばくならせ給 きうだち(公達)は多くわたらせ給。内のとしごろ(年来)の人々あまたわたらせ給へば、池の水すくなくなれば魚さわがしく、秋風立ば鳥こずえをあらそう様に候事に候へば、いくそばくぞ御内の人々そねみ候らんに、度々の仰をかへし、よりよりの御心にたがはせ給へば、いくそばくのざんげん(讒言)こそ候らんに、度々の御所領をかへして、今又所領給はらせ給と[云云]。此程の不思議は候はず。此偏に陰徳あれば陽れたる報ありとは此也。我主に法華経を信じさせまいらせんとをぼしめす御心のふかき故か。阿闍世王は仏の御怨なりしが、耆婆大臣の御すゝめによて、法華経を御信じありて代を持給。妙荘厳王は二子の御すゝめによて邪見をひるがへし給。此又しかるべし。貴辺の御すゝめによて今は御心もやわらがせ給てや候らん。此偏に貴辺の法華経の御信心のふかき故也。根ふかければ枝さかへ、源遠ければ流長と申て、一切経は根あさく流ちかく、法華経は根ふかく源とをし、末代悪世までもつきず、さかうべしと、天台大師あそばし給へり。
此法門につきし人あまた候しかども、をほやけわたくし(公私)の大難度々重なり候しかば、一年二年こそつき候しが、後々には皆或はをち、或はかへり矢をいる。或は身はをちねども心をち、或は心はをちねども身をちぬ。釈迦仏は浄飯王の嫡子、一閻浮提を知行する事、八万四千二百一十の大王なり。一閻浮提の諸王頭をかたぶけん上、御内に召つかいし人十万億人なりしかども、十九の御年、浄飯王宮を出させ給て檀特山に入て十二年。其間御とも(伴)の人五人なり。所謂拘鄰とと跋提と十力迦葉 拘利太子となり。此五人も六年と申せしに二人は去ぬ。残の三人も後の六年にすて奉て去ぬ。但一人残給てこそ仏にはならせ給しか。法華経は又此にもすぎて人信じがたかるべし。難信難解此也。又仏在世よりも末法は大難かさなるべし。此をこらへん行者は、我が功徳にはすぐれたる事、一劫とこそ説れて候へ。
仏滅度後二千二百三十余年になり候に、月氏一千余年が間、仏法を弘通せる人、伝記にのせてかくれなし。漢土一千年、日本七百年、又目録にのせて候しかども、仏のごとく大難に値る人々少し。我も聖人、我も賢人とは申せども、況滅度後の記文に値る人一人も候はず。龍樹菩薩・天台・伝教こそ仏法の大難に値人々にては候へども、此等も仏説には及事なし。此即代のあが(上)り、法華経の時に生値はせ給はざる故也。今は時すでに後五百歳末法の始也。日には五月十五日、月には八月十五夜に似たり。天台伝教は先に生給へり。今より後は又のちぐへ(後悔)なり。大陣すでに破ぬ。余党物のかずならず。今こそ仏記しをき給し後五百歳、末法の初、況滅度後の時に当て候へば、仏語むなしからずば、一閻浮提の内に定て聖人出現して候らん。聖人の出るしるしには、一閻浮提第一の合戦をこるべしと説れて候に、すでに合戦も起て候に、すでに聖人や一閻浮提の内に出させ給て候らん。きりん(麒麟)出しかば孔子を聖人としる。鯉社なつ(鳴)て聖人出給事疑なし。仏には栴檀の木をひ(生)て聖人としる。孔子は二十五の文を踏で聖人としる。
末代の法華経の聖人をば何を用てかしるべき。経云能説此経能持此経の人、則如来の使なり。八巻一巻一品一偈の人乃至題目を唱る人、如来の使なり。始中終すてずして大難をとをす人、如来の使なり。日蓮が心は全く如来の使にはあらず、凡夫なる故也。但三類の大怨敵にあだまれて、二度の流難に値へば、如来の御使に似たり。心は三毒ふかく、一身凡夫にて候へども、口に南無妙法蓮華経と申ば如来の使に似たり。過去を尋れば不軽菩薩に似たり。現在をとぶらうに加刀杖瓦石にたがう事なし。未来は当詣道場疑なからん歟。これをやしなはせ給人々は豈同居浄土の人にあらずや。事多と申せどもとどめ候。心をもて計らせ給べし。ちごのそらう(所労)よくなりたり。悦候ぞ。又大進阿闍梨の死去の事、末代のぎば(耆婆)いかでか此にすぐべきと、皆人舌をふり候なり。さにて候けるやらん。三位房が事、さう四郎が事、此事は宛も符契符契と申あひて候。日蓮が死生をばまかせまいらせて候。全く他のくすし(医師)をば用まじく候なり。   月  日   日蓮  [花押]  四條金吾殿