妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

鼠入鹿事

全集 第6巻 2段 定本: #20251(定本の該当ページへ)

書下し

鼠入鹿事ねずみいるかのこと


[1]鵞目一結がもくひとゆい、三年の古酒一筒、給び了んぬ。
[2]御文に云く、安房国にねずみいるかとかや申し候ふ大魚〈或は十七八尋、或は二十尋云云〉乃至、彼の大魚を鎌倉に、乃至、家々にあぶらにしぼり候。香たえ候ふべきやう候はず、くさく等云云。
[3]扶桑記に云く、〔「出羽国にて四月八日、河水沼(泥)水に死魚浮び、山擁塞ようそくして流れず。両の大蛇あり、長各十許たけおのおのじゆうばかりじよう、相連なり流出して海江に入る。小蛇の随う者その数を知らず。河に依る苗稼みようか流損多し。あるいは濁水に没して草木臭朽して生ぜず。○ただ弘仁年中○乃至、兵役これをく。またちようぼ骸骨その山水を汚す」〕等云云。〔この外、内典に伝うるに嗅気に依つて悪鬼国に入り聚る〕。
[4]已前の御文、御返事申し候しか。
現代語訳

鼠入鹿事


建治三年(一二七七)頃、五六歳、於身延、富木常忍宛、和漢混淆文、定一三六四—一三六五頁。

[1]銭一結、三年ものの古酒一筒、ありがたく頂戴いたしました。
[2]御手紙によれば、安房国で「ねずみいるか」という、体長が十七、八ひろ、あるいは二十尋(約三六メートル近く)にもなる大魚が捕れ、鎌倉に送られて、家々にて油をしぼったとのこと。けれども、その香りは譬えようもないほど臭かったとのこと。
[3]扶桑略記によれば、「出羽国において四月八日、川や沼の水面に魚がたくさん死んで浮かび上がり、山間やまあいふさいで水の流れを止めてしまった。二匹の大蛇があり、それぞれの体長が十丈(約三〇メートル)ばかり、相連なって流れ出て海に入り、それに随って数え切れないほどの小蛇がついていった。そのため、川辺にある稲の苗はほとんど流されてしまい、草木も濁った水に没してち果ててしまった。また弘仁年中に戦乱が起こり、墓や死骸が山水を汚して悪臭を発した」等と記されています。このほか仏典にも、悪臭によって悪鬼が国に集まると伝えられております。(後欠)
[4]以前の御手紙に御返事申し上げました。