松野後家尼御前御消息
38 松野後家尼御前御消息
外典文云奸人在朝賢者不進。
沙石集云盲亀の浮木の孔にあふと云事は、実にさる事の有にはあらず。譬へばと云事也。譬へば目つぶれたる亀は南海にあり。眼くらければひらなる石上をも不見。なびらかなるはまをも不知。餌にくうべき物をも見つけず。あらき波にうたれていつとなく波にゆられてありきぬ[云云]。
沙石集云盲亀の浮木の孔にあふと云事は、実にさる事の有にはあらず。譬へばと云事也。譬へば目つぶれたる亀は南海にあり。眼くらければひらなる石上をも不見。なびらかなるはまをも不知。餌にくうべき物をも見つけず。あらき波にうたれていつとなく波にゆられてありきぬ[云云]。
海に大なる浮木のある上にひらなる穴あり、亀も浮木も浪に随てありく程に、不思外に亀浮木に行あひてはひのりぬ。大なれば波あらけれども沈む事なし。亀此の木の上に登り得て悦身に余れり。以之法門に譬る様は、目つぶれたる亀は此比の衆生なり我等が如し。海と云は生死の大海なり。五欲の波高くして大慈大悲の智光にあたる事なし。浮木と云は法華経也。多千億劫の間生死の苦海にただよふ。幸に法華経の浮木にあひ奉り、四苦八苦の波高けれども沈む事なくして、仏・菩薩・日月の光に照されまいらせて、生死の海におそれなしと云事也[云云]。南無妙法蓮華経 南無妙法蓮華経。
[花押]
松野後家尼御前御消息
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