妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

妙法尼御前御返事明衣書

第二巻 定本番号 20423 弘安4(1281) 分類: その他

祖寿: 60 著作地: 身延 

    423   妙法尼御前御返事
明衣一給畢。女人の御身、男にもをくれ、親類をもはなれ、一二人あるむすめ(娘)もはかばかしからず便りなき上、法門の故に人にもあだまれさせ給ふ女人、さながら不軽菩薩の如し。仏の御姨母摩訶波闍波提比丘尼は女人ぞかし。而に阿羅漢とならせ給て声聞の御名を得させ給ひ、永不成仏の道に入らせ給しかば、女人の姿をかへ、きさきの位を捨てて、仏の御すゝめを敬ひ、四十余年が程五百戒を持て、昼は道路にたゝずみ、夜は樹下に坐して、後生をねがひしに、成仏の道を許されずして、永不成仏のうきなを流させ給し。くちをしかりし事ぞかし。女人なれば過去遠々劫の間、有に付ても、無に付ても、あだな(虚名)を立しは、はづかしく、口惜かりしぞかし。其身をいとひて形をやつし尼と成て候へば、かゝるなげきは離れぬとこそ思ひしに、相違して二乗となり、永不成仏と聞しは、いかばかりあさましくをわせしに、法華経にして三世の諸仏の御勘気を許され、一切衆生喜見仏と成せ給しは、いくら程かうれしく悦ばしくをはしけん。さるにては法華経の御為と申には、何なる事有とも背せ給まじきぞかし。
其に仏の言く以大音声普告四衆誰能於此娑婆国土広説妙法華経等[云云]。我も我もと思に、諸仏の恩を報ぜんと思はん尼御前女人達、何事をも忍て我滅後、此娑婆世界にして、法華経を弘むべしと三箇度までいさめさせ給しに、御用ひなくして於他方国土広宣此経と申させ給しは能々不得心の尼ぞかし。幾くか仏悪しとをぼしけん。されば仏はそばむき(測見)て、八十万億那由佗の諸菩薩をこそつくづくと御覧ぜしか。されば女人は由なき道には名を折命を捨れども、成仏の道はよはかりけるやとをぼへ候に、今末代悪世の女人と生れさせ給て、かゝるものをぼえぬ島のえびす(夷)に、のられ、打れ、責をしのび、法華経を弘めさせ給。
彼比丘尼には雲泥勝てありと仏は霊山にて御覧あるらん。彼比丘尼の御名を一切衆生喜見仏と申は別の事にあらず。今の妙法尼御前の名にて候べし。王となる人は過去にても現在にても十善を持人の名也。名はかはれども師子の座は一也。此名もかはるべからず。彼仏の御言をさかがへ(倒反)す尼だにも、一切衆生喜見仏となづけらる。是は仏の言をたがへず、此娑婆世界にて名を失ひ命をすつる尼也。彼は養母として捨給はず。是は他人として捨させ給はば偏頗の仏也。争かさる事は候べき。況や其中衆生悉是吾子の経文の如ならば今の尼は女子也。彼尼は養母也。養母を捨ずして女子を捨る仏の御意やあるべき。此道理を深く御存知あるべし。しげければとどめ候畢。   日蓮  花押   妙法尼御前