妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

妙心尼御前御返事

第二巻 定本番号 20365 弘安3(1280) 分類: その他

祖寿: 59 著作地: 身延 写本: 日興筆富士大石寺蔵

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    365   妙心尼御前御返事
すゞ(種々)のもの給て候。たうじはのう(農)時にて人のいとまなき時、かやうにくさぐさのものどもをくり給て候事、いかにとも申ばかりなく候。これもひとへに故入道殿の御わかれのしのびがたきに、後世の御ためにてこそ候らんめ。ねんごろにごせ(後世)をとぶらはせ給候へば、いくそばくうれしくおはしますらん。とふ人もなき草むらに、露しげきやうにて、さばせかい(娑婆世界)にとゞめをきしをさなきものなんどの、ゆくへきかまほし。あの蘇武が胡国に十九年、ふるさとの妻と子とのこひしさに、雁の足につけしふみ。安部中磨呂が漢土にて日本へかへされざりし時、東よりいでし月をみて、あのかすがの(春日野)の月よとながめしも、身にあたりてこそおはすらめ。
しかるに法華経の題目をつねはとなへさせ給へば、此の妙の文じ御つかひに変ぜさせ給、或は文殊師利菩薩、或は普賢菩薩、或は上行菩薩、或は不軽菩薩等とならせ給。ちんし(陳子)がかゞみ(鏡)のとり(鳥)のつねにつげ(告)しがごとく、蘇武がめ(妻)のきぬたのこえのきこへしがごとく、さばせかい(娑婆世界)の事を冥途につげさせ給らん。
又妙の文字は花のこのみとなるがごとく、半月の満月となるがごとく、変じて仏とならせ給文字也。されば経に云能持此経則持仏身。天台大師云一々文々是真仏等[云云]。妙の文字は三十二相八十種好円備せさせ給釈迦如来にておはしますを、我等が眼つたなくして文字とはみまいらせ候也。譬へば、はちす(蓮)の子の池の中に生て候がやうに候はちすの候を、としよりて候人は眼くらくしてみず。よるはかげの候を、やみにみざるがごとし。されども此妙字は仏にておはし候也。
又、此妙の文字は月也、日也、星也、かゞみ也、衣也、食也、花也、大地也、大海也。一切の功徳を合て妙の文字とならせ給。又は如意宝珠のたま也。かくのごとくしらせ給べし。くはしくは又々申べし。   五月四日   日蓮  花押   はわき殿申させ給へ