妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

窪尼御前御返事

第二巻 定本番号 20333 弘安2(1279) 分類: 真蹟断片現存

祖寿: 58 著作地: 身延 真蹟: 甲斐一瀬妙了寺断片 写本: 日興筆富士大石寺蔵

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    333   窪尼御前御返事
御供養の物、数のまゝに慥に給候。当時は五月の比おひにて民のいとまなし。其上、宮の造営にて候也。かゝる暇なき時、山中の有様思ひやらせ給て送りたびて候事、御志殊にふかし。
阿育大王と申せし王は、この天の日のめぐらせ給一閻浮提を大体しろしめされ候し王也。此王は昔 徳勝とて五になる童にて候しが、釈迦仏にすなのもちゐ(沙餅)をまいらせたりしゆへに、かゝる大王と生させ給。此童はさしも心ざしなし、たわふれなるやうにてこそ候しかども、仏のめでたくをはすれば、わづかの事もものとなりてかゝるめでたき事候。まして法華経は仏にまさらせ給事、星と月とともしびと日とのごとし。又御心ざしもすぐれて候。されば故入道殿も仏にならせ給べし。又一人をはするひめ御前も、いのちもながく、さひわひもありて、さる人のむすめなりときこえさせ給べし。
当時もおさなけれども母をかけてすごす女人なれば、父の後世をもたすくべし。から(唐)国にせいし(西施)と申せし女人は、わかなを山につみて、をひたるはわ(老母)をやしなひき。天あはれみて、越王と申大王のかり(狩)せさせ給しが、みつけてきさき(后)となりにき。これも又かくのごとし。をやをやしなふ女人なれば天もまほらせ給らん、仏もあはれみ候らん。一切の善根の中に、孝養父母は第一にて候なれば、まして法華経にてをはす。金のうつわものに、きよき水を入たるがごとく、すこしももる(漏)べからず候。めでたしめでたし。恐々謹言。   五月四日   日蓮 [花押] くぼの尼御前 [御返事]