妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

上野殿御返事

第二巻 定本番号 20306 弘安1(1278) 分類: その他

祖寿: 57 著作地: 身延 

    306   上野殿御返事
塩一駄はじかみ送給候。金多して日本国の沙のごとくならば、誰かたからとしてはこのそこ(筐底)におさむべき。餅多して一閻浮提の大地のごとくならば、誰か米の恩をおも(重)くせん。
今年は正月より日々に雨ふり、ことに七月より大雨ひまなし。このところは山中なる上、南は波木井河、北は早河、東は富士河、西は深山なれば、長雨大雨時々日々につづく間、山さけて谷をうづみ、石ながれて道をふせぐ。河たけくして舟わたらず。富人なくして五穀ともし。商人なくして人あつまる事なし。七月なんどはしほ(塩)一升をぜに百、しほ五合を麦一斗にかへ候しが、今はぜんたいしほなし。何を以てかかう(買)べき。みそ(味噌)もたえぬ。小児のち(乳)をしのぶがごとし。
かゝるところにこのしほを一駄給て候。御志大地よりもあつく、虚空よりもひろし。予が言は力及ぶべからず。ただ法華経と釈迦仏とにゆづりまいらせ候。事多と申せども紙上にはつくしがたし。恐恐謹言。   弘安元年九月十九日   日蓮  花押   上野殿  御返事