九郎太郎殿御返事
229 九郎太郎殿御返事
いゑの芋一駄送給候。こんろん(崑崙)山と申山には玉のみ有て石なし。石ともしければ玉をもて石をかう。はうれいひん(彭蠡浜)と申浦には木草なし。いを(魚)もつて薪をかう。鼻に病ある者はせんだん(栴檀)香、用にあらず。眼なき者は明なる鏡なにかせん。
此身延の沢と申す処は甲斐国波木井の郷の内の深山也。西には七面のかれと申すたけ(嶽)あり。東は天子のたけ、南は鷹取のたけ、北は身延のたけ。四山の中に深き谷あり。はこのそこのごとし。峰にははかう(巴峡)の猿の音かまびすし。谷にはたいかい(□_)の石多し。然ども、するが(駿河)のいものやうに候石は一も候はず。いも(芋)のめづらしき事、くらき夜のともしび(燈)にもすぎ、かは(渇)ける時の水にもすぎて候ひき。いかにめづらしからずとはあそばされて候ぞ。されば其には多候歟。あらこひ(恋)し、あらこひし。法華経釈迦仏にゆづりまいらせ候ぬ。定て仏は御志をおさめ給なれば御悦候らん。霊山浄土へまひらせ給たらん時御尋あるべし。恐恐謹言。 建治二年[丙子]九月十五日 日蓮 [花押] 九郎太郎殿 [御返事]