妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

妙心尼御前御返事

第二巻 定本番号 20191 建治1(1275) 分類: 真蹟曽存

祖寿: 54 著作地: 身延 真蹟: 身延山(曽) 写本: 日興筆 富士大石寺蔵

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    191   妙心尼御前御返事
あわしかき(泡消柿)二篭、なすび(茹子)一こ、給候了。入道殿の御所労の事。唐土に黄帝・扁鵲と申せしくすし(医師)あり、天竺に持水・耆婆と申せしくすしあり。これらはその世のたから、末代のくすしの師也。仏と申せし人はこれにはにるべくもなきいみじきくすし也。この仏不死の薬をとかせ給へり。今の妙法蓮華経五字是也。しかもこの五字をば閻浮提人病之良薬とこそとかれて候へ。入道殿は閻浮提の内日本国の人也。しかも身に病をうけられて候。病之良薬の経文顕然也。其上蓮華経は第一の薬也。はるり(波瑠璃)王と申せし悪王、仏のしたしき女人五百余人を殺て候しに、仏、阿難を雪山につかはして青蓮華をとりよせて身にふれさせ給しかば、よみがへりて七日ありて利天に生にき。蓮華と申花はかゝるいみじき徳ある花にて候へば、仏、妙法にたとへ給へり。
又人の死事はやまひにはよらず。当時のゆき・つしま(壱岐対馬)のものどもは病なけれども、みなみなむこ(蒙古)人に一時にうちころされぬ。病あれば死べしといふ事不定也。又このやまひは仏の御はからひか。そのゆへは浄名経・涅槃経には病ある人仏になるべきよしとかれて候。病によりて道心はをこり候歟。
又一切の病の中には五逆罪と、一闡提と、謗法をこそおもき病とは仏はいたませ給へ。今の日本国の人は一人もなく極大重病あり、所謂大謗法の重病也。今の禅宗・念仏宗・律宗・真言師也。これらはあまりに病おもきゆへに、我身にもをぼへず人もしらぬ病也。この病のこうずるゆへに、四海のつわもの(戎兵)ただいま来なば、王臣万民みなしづみなん。これをいきてみ候はんまなこ(眼)こそあさましく候へ。
入道殿は今生にはいたく法華経を御信用ありとは見候はねども、過去の宿習のゆへかのもよをしによりて、このなが病にしづみ、日々夜々に道心ひまなし。今生につくりをかせ給し小罪はすでにきへ候ぬらん。謗法の大悪は又法華経に帰しぬるゆへにきへさせ給べし。ただいまに霊山にまいらせ給なば、日いでて十方をみるがごとくうれしく、とくしに(死)ぬるものかなと、うちよろこび給候はんずらん。中有の道にいかなる事もいできたり候はば、日蓮がでし(弟子)也となのらせ給へ。わずかの日本国なれども、さがみ(相模)殿のうちのものと申をば、さうなくおそるる事候。日蓮は日本第一のふたう(不当)の法師。ただし法華経を信候事は、一閻浮提第一の聖人也。其名は十方の浄土にきこえぬ。定天地もしりぬらん。日蓮が弟子となのらせ給はば、いかなる悪鬼等なりとも、よもしらぬよしは申さじとおぼすべし。さては度々の御心ざし申ばかりなし。恐恐謹言。
さる(猿)は木をたのむ。魚は水をたのむ。女人はおとこをたのむ。わかれのをしきゆへにかみをそり、そでをすみにそめぬ。いかでか十方の仏もあはれませ給はざるべき、法華経もすてさせ給べきとたのませ給たのませ給。   八月十六日   日蓮  [花押]   妙心尼御前御返事