経王殿御返事(報四條氏書)
128 経王殿御返事
其後御をとづれきかまほしく候つるところに、わざと人ををくり給候。又何よりも重宝たるあし(銭)、山海を尋るとも日蓮が身には時に当りて大切に候。
夫について経王御前の事、二六時中に日月天に祈申候。先日のまほり(守)暫時も身をはなさずたもち給へ。其本尊は正法・像法二時には習へる人だにもなし。ましてかき顕し奉る事たえたり。師子王は全三後一と申て、あり(蟻)の子を取らんとするにも、又たけ(猛)きものを取らんとする時も、いきをひを出す事はただをなじき事也。日蓮守護たる処の御本尊をしたゝめ参らせ候事も師子王にをとるべからず。経云、師子奮迅之力とは是也。又此曼荼羅能能信ぜさせ給べし。南無妙法蓮華経は師子吼の如し。いかなる病さはりをなすべきや。鬼子母神十羅刹女、法華経の題目を持つものを守護すべしと見えたり。さいはいは愛染の如く、福は毘沙門の如くなるべし。
いかなる処にて遊びたはふるとも、つゝがあるべからず。遊行無畏如師子王なるべし。十羅刹女の中にも皐諦女守護ふかかるべき也。但し御信心によるべし。つるぎなんども、すすまざる人のためには用事なし。法華経の剣は信心のけなげ(勇)なる人こそ用事なれ。鬼にかなぼうなるべし。日蓮がたましひをすみ(墨)にそめながしてかきて候ぞ。信じさせ給へ。仏の御意は法華経也。日蓮がたましひは南無妙法蓮華経にすぎたるはなし。妙楽云以顕本遠寿為其命と釈し給。経王御前にはわざはひも転じて幸となるべし。あひかまへて御信心を出し、此御本尊に祈念せしめ給へ。何事か成就せざるべき。充満其願如清涼池現世安穏後生善処疑なからん。
又申候。当国の大難ゆり候はば、いそぎいそぎ鎌倉へ上り見参いたすべし。法華経の功力を思ひやり候へば不老不死目前にあり。ただ歎く所は露命計也。天たすけ給へと強盛に申候。浄徳夫人龍女の跡をつがせ給へ。南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。あなかしこあなかしこ。 八月十五日 日蓮[花押] 経王御前御返事