妙法曼陀羅供養事
117 妙法曼陀羅供養事
妙法蓮華経御本尊供養候。此曼陀羅は文字は五字七字にて候へども、三世諸仏の御師、一切の女人の成仏の印文也。冥途にはともしびとなり、死出の山にては良馬となり、天には日月の如し、地には須弥山の如し。生死海の船也。成仏得道の導師也。
此大曼陀羅は仏滅後二千二百二十余年之間、一閻浮提之内には未だひろまらせ給はず。
病によりて薬あり、軽病には凡薬をほどこし、重病には仙薬をあたうべし。仏滅後より今までは二千二百二十余年之間は、人の煩悩と罪業の病軽かりしかば、智者と申医師たちつづき出させ給て、病に随て薬をあたえ給き。所謂倶舎宗・成実宗・律宗・法相宗・三論宗・真言宗・浄土宗・禅宗等也。彼の宗宗に一一に薬あり。所謂華厳の六相十玄、三論の八不中道、法相の唯識観、律宗の二百五十戒、浄土宗の弥陀の名号、禅宗の見性成仏、真言宗の五輪観、天台宗の一念三千等也。今世既に末法にのぞみて諸宗の機にあらざる上、日本国一同に一闡提大謗法の者となる。又物に譬れば、父母を殺す罪、謀叛ををこせる科、出仏身血等重罪等にも過たり。三千大千世界の一切衆生の人の眼をぬける罪よりも深く、十方世界の堂塔を焼きはらへるよりも超たる大罪を、一人して作れる程の衆生日本国に充満せり。されば天は日日に眼をいからして日本国をにらめ、地神忿を作して時時に身をふるう也。
然而我朝の一切衆生は皆我身に科なしと思ひ、必往生すべし、成仏をとげんと思へり。赫赫たる日輪をも無目者は不見不知。譬ばたいこ(鼓)の如くなる地震をもねぶれる者の心にはをぼえず。日本国の一切衆生如是。女人よりも男子の科はをゝく、男子よりも尼のとがは重し。尼よりも僧の科はをゝく、破戒の僧よりも持戒の法師のとがは重し。持戒の僧よりも智者の科はをもかるべし。此等は癩病の中の白癩病、白癩病の中の大白癩病なり。末代の一切衆生はいかなる大医いかなる良薬を以てか可治かんがへ候へば、大日如来の智拳印並に大日の真言、阿弥陀如来の四十八願、薬師如来の十二大願衆病悉除の誓も不可及。此薬つやつや病消滅せざる上、いよいよ倍増すべし。此等の末法の時のために、教主釈尊多宝如来十方分身諸仏を集させ給て、一の仙薬をとどめ給へり。所謂妙法蓮華経の五の文字也。此文字をば法慧功徳林・金剛薩埵・普賢・文殊・薬王・観音等にもあつらへさせ給はず。何況迦葉舎利弗等をや。上行菩薩等と申て四人の大菩薩まします。此菩薩は釈迦如来五百塵点劫よりこのかた御弟子とならせ給て、一念も仏をわすれずまします大菩薩を召出して授させ給へり。
されば此良薬を持たん女人等をば、此四人の大菩薩前後左右に立そひて、此女人たゝせ給へば此大菩薩も立せ給ふ。乃至此女人道を行く時は此菩薩も道を行き給ふ。譬へばかげと身と、水と魚と、声とひびきと、月と光との如し。此四大菩薩、南無妙法蓮華経と唱たてまつる女人をはなるるならば、釈迦多宝十方分身の諸仏の御勘気を此菩薩の身に蒙せ給べし。提婆よりも罪深く、瞿伽利よりも大妄語のものたるべしとをぼしめすべし。あら悦ばしや。あら悦ばしや。南無妙法蓮華経南無妙法蓮華経。 日蓮 花押