妙傳寺聖典個人版 新・電子聖典

庵室修復書

全集 第5巻 2段 定本: #20268(定本の該当ページへ)

書下し

庵室修復書あじちしゆうふくしよ


[1]いぬる文永十一年六月十七日に、この山のなかに、き(木)をうちきりて、かりそめにあじち(庵室)をつくりて候しが、やうやく四年がほど、はしら(柱)くち、かきかべ(牆壁)をち候へども、なを(直)す事なくて、よる(夜)ひ(火)をとぼさねども、月のひかりにて聖教をよみまいらせ、われと御経をまき(巻)まいらせ候はねども、風をのづからふきかへ(吹返)しまいらせ候しが、今年は十二のはしら(柱)四方よもにかふべ(頭)をな(投)げ、四方のかべは一そ(所)にたう(倒)れぬ。うだい(有待)たもちがたければ、月はす(住)め、雨はとどまれと、はげみ候つるほどに、人ぶ(夫)なくしてがくしやうども(学生共)をせめ、食なくしてゆき(雪)をもちて命をたすけて候ところに、さき(前)にうへのどの(上野殿)より、いも(芋)二駄これ一だはたま(珠)にもすぎ。(後欠)
現代語訳

庵室修復書


建治三年(一二七七)、五六歳、於身延、和文、定一四一〇—一四一一頁。

[1]去る文永十一年(<暦>一二七四)六月十七日に、この身延の山に木を伐りまにあわせの庵室を造りましたが、四年もたつと次第に柱は朽ち、土壁はくずれ落ち、修繕もしませんでしたので、夜は火をともさなくても月の光で聖教を読み、経巻を巻かなくても吹き込む風が自然に巻いてくれます。今年はとうとう十二本の柱が四方に傾き、四方の壁も同時に落ちてしまいました。生滅無常の世に生きるはかない身ですので、雨が降らないようにと祈りながら工事に精を出しましたが、人夫がいないので弟子たちを励まし、その上、食料もありませんので雪をかじり、命を支えておりましたところ、以前に上野殿から供養として送られた二駄の芋、そして今またお送りいただいた一駄の芋は、珠玉よりもありがたく感謝するばかりです。