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出家功徳御書

第三巻 定本番号 3 弘安2(1279) 分類: その他

祖寿: 58 

   36   出家功徳御書
近日誰やらん承て申候は、内内還俗の心中出来候由、風聞候ひけるは、実事にてや候らん、虚事にてや候らん。心元なく候間、一筆令啓候。
凡父母の家を出て僧となる事は、必父母を助る道にて候也。出家功徳経云、高三十三天に百千の塔婆を立るよりも、一日出家の功徳は勝れたりと。されば其身は無智無行にもあれ、かみ(髪)をそ(剃)り、袈裟をかくる形には天魔も恐をなすと見たり。大集経云、剃頭著袈裟持戒及毀戒天人可供養則為供養仏[云云]。又一経の文に、有人海辺をとをる、一人の餓鬼あつて喜び踊れり。其謂れを尋ぬれば、我七世の孫、今日出家になれり。其功徳にひかれて出離生死せん事、喜ばしきなりと答へたり。されば出家と成事は、我身助るのみならず、親をも助け、上無量の父母まで助る功徳あり。
されば人身をうくること難く、人身をうけても出家と成こと尤も難し。然るに悪縁にあふて還俗の念起る事、浅ましき次第也。金を捨て石をとり、薬を捨て毒をとるが如し。我身悪道に堕るのみならず、六親眷属をも悪道に引ん事、不便の至極也。其上在家の世を渡る辛労一方ならず、やがて必後悔あるべし。只親のなされたる如く、道をちがへず出家にてあるべし。道を違へずば十羅刹女の御守堅かるべし。道をちがへたる者をば、神も捨させ給へる理りにて候也。大勢至経云、衆生有五失必堕悪道一出家還俗失。又云、出家還俗者其失過五逆[文]。五逆罪と申は父を殺し、母を殺し、仏打奉りなんどする大なる失を五聚めて五逆罪と云也。されば此五逆罪の人は、一中劫の間無間地獄に堕て浮ぶ事なしと見えたり。然るに今宿善薫発して、出家せる人の還俗の心付て落るならば、彼の五逆罪の人よりも、罪深くして大地獄に堕べしと申経文也。能能此文を御覧じて思案あるべし。
我身は天よりもふらず、地よりも出でず、父母の肉身を分たる身也。我身を損ずるは父母の身を損ずる也。此道理を弁へて親の命に随ふを孝行と云。親の命に背を不孝と申也。所詮心は兎も角も起れ、身をば教の如く一期出家にてあらば、自ら冥加も有べし。此理に背て還俗せば、仏天の御罰を蒙り、現世には浅ましくなりはて、後生には三悪道に堕ぬべし。能能思案あるべし。身は無智無行にもあれ、形出家にてあらば、里にも喜び、某も祝著たるべし。況や能僧にて候はんをや。委細の趣期後音候。
 弘安二年五月 日   日 蓮[花押]