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南條兵衛七郎殿御返事鶏冠書

第二巻 定本番号 20411 弘安4(1281) 分類: その他

祖寿: 60 著作地: 身延 

    411   南條兵衛七郎殿御返事
御使の申候を承候。是の所労難儀のよし聞候。いそぎ療治をいたされ候て可有御参詣候。  塩一駄・大豆一俵・とつさか(鶏冠菜)一袋・酒一筒給候。上野国より御帰宅候後未入見参候。牀数存候し処に品々の物ども取副候て御音信に預候事申尽難き御志にて候。
今申せば事新に相似て候へども、徳勝童子は仏に土の餅を奉て、阿育大王と生て、南閻浮提を大体知行すと承候。土の餅は物ならねども、仏のいみじく渡せ給へば、かくいみじき報を得たり。然に釈迦仏は、我を無量の珍宝を以て億劫の間供養せんよりは、末代の法華経の行者を一日なりとも供養せん功徳は、百千万億倍過ぐべしとこそ説せ給て候に、法華経の行者を心に入て数年供養し給事、難有御志哉。如金言者、定て後生は霊山浄土に生れ給べし。いみじき果報哉。
其上、此処は人倫を離れたる山中也。東西南北を去て里もなし。かゝるいと心細き幽窟なれども、教主釈尊の一大事の秘法を霊鷲山にして相伝し、日蓮が肉団の胸中に秘して隠し持てり。されば日蓮が胸の間は諸仏入定の処也。舌の上は転法輪の所、喉は誕生の処、口中は正覚の砌なるべし。かゝる不思議なる法華経の行者の住処なれば、いかでか霊山浄土に劣るべき。法妙なるが故に人貴し。人貴きが故に所尊と申は是也。神力品云若於林中若於樹下若於僧坊乃至而般涅槃[云云]。
此砌に望まん輩は無始の罪障忽に消滅し、三業の悪転じて三徳を成ぜん。彼中天竺の無熱池に臨し悩者が、除愈心中熱気充満其願如清涼池とうそぶきしも、彼此異なりといへども、其意は争か替るべき。彼月氏の霊鷲山は本朝此身延の嶺也。参詣遥に中絶せり。急々に可企来臨。是にて待入候べし。哀々申つくしがたき御志かな、御志かな。   弘安四年九月十一日   日蓮  花押   南條兵衛七郎殿  御返事