春初御消息
426 春初御消息
ははき殿かきて候事、よろこびいりて候。
春の初の御悦、木に花のさくがごとく、山に草の生出がごとし、と我も人も悦入て候。さては御送物の日記、八木一俵・白塩一俵・十字三十枚・いも一俵給候了。
春の初の御悦、木に花のさくがごとく、山に草の生出がごとし、と我も人も悦入て候。さては御送物の日記、八木一俵・白塩一俵・十字三十枚・いも一俵給候了。
深山の中に白雪三日の間に庭は一丈につもり、谷はみね(峰)となり、みねは天にはし(梯)かけたり。鳥鹿は庵室に入、樵牧は山にさしいらず。衣はうすし食はたえたり。夜はかんく(寒苦)鳥にことならず。昼は里へいでんとおもふ心ひまなし。すでに読経のこえもたえ、観念の心もうすし。今生退転して未来三五を経事をなげき候つるところに、此御とぶらひに命いきて又もや見参に入候はんずらんとうれしく候。
過去の仏は凡夫にておはしまし候し時、五濁乱漫の世にかゝる飢たる法華経の行者をやしなひて、仏にはならせ給ぞとみえて候へば、法華経まことならば此功徳によりて過去の慈父は成仏疑なし。故五郎殿も今は霊山浄土にまいりあはせ給て故殿に御かうべをなでられさせ給べしと、おもひやり候へば涙かきあへられず。恐恐謹言。 正月二十日 日蓮 花押 上野殿 御返事